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プロローグ
駐車スペースに車を停め、ドアを開けて古いコンクリートの地面に降り立つと、冷たいけれど穏やかな潮風が頬に当たった。
白いうみねこが旋回する空は、雲一つない秋晴れ。海は優しく凪ぎ、太陽に照らされている。
潮風のにおいが懐かしい。なんだか、胸が切なくなるような思いがした。
私は両手を少しだけ広げ、足を前へと踏み出す。もっと、この空気を感じたいと思ったのだ。
ここ小樽南防波堤には、百年以上の歴史がある。
ということは、この場所は百年以上、波や海風、雨、雪に晒されていたわけで、ところどころが削られて、穴が開いている。
つまり、足元が悪い。
はいていたパンプスのヒール部分が穴にはまり込み、私はあっという間にバランスを崩した。
「……!!」
「椿あやみ、気を付けろ」
転びかけた私の腕を、強い力で引き上げ支えたのは、同僚の佐倉伶だった。
「ご、ごめん。ありがとう」
振り向くと、ブルーグレーのスーツに身を包んだ、すらりと背の高い青年が立っている。
たいていの女性がうっとりしてしまうような、気品のある、美しい顔だち。
佐倉は整った眉をひそめながら、私を見下ろした。
「仕事中は常に自他の安全に配慮すべきだ。椿は注意散漫が過ぎる」
要するに、「ぼーっとするな」ということだ。
「はい。すみません……」
シュンとしている私を、佐倉は顔だけで振り返った。
「行くぞ」
そう言って、こちらに手を差し出してくる。
私はびっくりして顔を上げた。
どうやら防波堤まで、私が転ばないよう、佐倉が手を引いてくれるらしい。
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