プロローグ

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   真面目で厳しいけれど、優しさもある。  そんな一面が垣間見える時、私はいつも、隠しきれない「育ちの良さ」を佐倉に感じるのだった。  そんな佐倉に手を引かれて歩き、ちらりと足元の海面に目をやると、数匹の細い魚が群れになって泳いでいるのが見えた。 「カタクチイワシだな」 「うん」  今日は天気が良いうえ、風が強くないから、海は波が立っていない凪の状態だ。  だから透明度が高くなくても、水の中がよく見える。  コンクリートの海水に浸かった部分に、緑色や赤色の海藻が生えていて、私はそこにいがぐり状の黒いものを発見した。 「あ……」  うにだ──佐倉に教えてあげようと思って顔を上げると、心が湧きたつような美しい秋晴れの空と、佐倉の後ろ姿が目に入った。
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