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私は、あの一件から彼に心を開くようになった。隣の席の彼が、私にくれる言葉のすべてが私にとって心地の良いものだった。私は、これが友達と一緒に話をすることなんだと思った。
私は、教室に彼が来るとすぐに話しかけるようになった。けれど、私はあまり会話に慣れていなかったからネット調べたような簡単な話題提供しかできなかった。
「おはよう」
「おはよう」
彼は、一呼吸おいてから、私に挨拶を返してくれた。
「今日は何食べたの。私は、みそ汁とふりかけでご飯にした」
「僕は、トースト2枚とスープ」
「今日雨降るらしいよ。傘って持ってきた」
「そうなの。急いでたから、知らなかった。でもまだ降らないよね」
「もし、降ったら、傘2本あるから貸すよ」
「いいの。ありがとう」
会話に慣れてないから、一度切れてしまうとなんて会話を始めたらいいのかわからなくなる。それでも、他の人と二人で話して沈黙が続くと嫌だけど、彼となら、その沈黙も気まずくは感じなかった。今までは、クラスメートが教室に入ってくると怖くて話かけられたくなかった。だから、本を読んでいたり、読んでいる振りをして話しかけられないようにしていた。でも、隣の席に彼がいれば、それも怖く感じなかった。
あの一件の前までは、嫌だった隣に人がいることもなんだか心地よく思えてきた。隣にある机も隣に座る彼もこのままずっといてほしいと思った。あと一週間でお別れになってしまうというのにそれがとても寂しかった。
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