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二人が付き合い始めてから、一か月が経った。二人から、恋の相談を受けるたび胸がキュッと痛んだ。そして空気がなくなったような気がした。二人の相談は、相談というようなのろけ話のように思えた。それでも笑っていないといけない気がした。
ある日の夜のことだった。もう午後十時を過ぎていた。それでも佳恋からの着信だから、出ないわけにもいかなかった。二人が明日デートに行くことを知っていたから。
「ねえ、明日に彼氏と出かけるんだけどどんな服着てくのがいいかな」
と佳恋の嬉しそうな声が聞こえた。
「わからないよ。きっとどんな服を着てても、佳恋が来てくれるだけで嬉しいと思うよ。あいつは」
と私は言った。
私は、自分の言った言葉にはっとした。私は、知っていた好みの洋服も何もかも知っていた。だからこそ好きな服装は言えなかった。
けれど、最後の一言は正解であることも分かってしまったことが悲しかった。そしてそれが正解になる佳恋が羨ましく思えてしまった。
そして、佳恋の言う彼氏がもっと違う人だったら、色々してあげれるのにと思った。こんな自分が何より悔しかった。
それでも私の言葉で、佳恋を勇気づけてあげることができたことは、本当に嬉しかった。
私が二人がデートに行くことを知っているのは、数日前に、もう一人の友達から相談を受けていたからだった。
「ねえ、今度佳恋と出かけるんだけどさ。どういうところがいいかな。お前女だし、友達だろ。好みとかわからない」
「えー。難しいな。中学の時は、甘いものが好きだって言ってたけど、今はダイエットしてるって言ってたし。最近SNSのこと気にしているから、写真映えするとことか。運動できるところも良いかも」
「もっとなんか具体的にないの」
「でも、結局は佳恋はあんたと出かけられることが嬉しいと思うよ。どんなところであったとしても。だから、自分が行きたいと思ったところに行けばいいよ」
「そっか。ありがとな」
と彼が私の目を見て言った。
私には、それがより悲しいことだった。本当は、佳恋があいつと行きたがっていた場所も知っていたでもその場所を言えなかった。けれど、私の答えが一番の正しいことも悲しく感じた。
相談をされて答えないといけない、知っている答えを話してあげられない、自分がとんでもなく自分勝手な気がした。卑怯な気がした。なんで恋をしたら、優しいままでいられないのかわからなかった。
恋をしたら、きれいになれると信じていたのに。実際は、どんどん醜くなっている。そんなような気がして悲しかった。
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