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「これは秘密にしてほしいんです」
提供者の加賀美百合は声を潜めて言った。
わたしは居住まいを正すと、改めて彼女を見た。
ここは喫茶店の奥まった席。離れ小島のような席にしたのも、誰かに話しを聞かれないためだ。
加賀美さんは不安そうに眉を寄せた。
「こちらは守秘義務があります。加賀美さんから伺ったことは絶対に他言はいたしません。ですから、肩の力を抜いてください。まず、深呼吸しましょうか」
わたしに促され、彼女は大きく息を吸って吐いた。
わたしは都内に住むフリーのライターだ。昨年、あるノンフィクションが栄誉ある賞をとり、ライターとしてやっていけるお墨付きを得た。
そして、二匹目のドジョウを得ようと、こうして取材を敢行している。
主なフィールドは都市伝説だ。一作目のわたしの記念すべきノンフィクションも、都市伝説を基にした話だった。
部数はそれなりに売れ、発行元の出版社から重版をかけると告げられた。
もちろん、こんなところでわたしは有頂天にはならない。その勢いのまま、二冊目を刊行し、都市伝説研究家の地位を固めるつもりだ。
加賀美さんはコーヒーを一口飲み、乾いた唇を舐めた。
「牧野さんは、妊娠したことありますか?」
突然、意味不明なことを言われ、わたしはたじろいだ。
「いいえ。わたしは結婚もしておりません。彼氏と呼べる人はいますが、彼とは遠距離で最近は会っていませんね。妊娠する機会はないですね」
「ごめんなさい。変なことを訊いてしまって。あの、わたし、一度妊娠したんです。でも、わたし、身に覚えがないんです」
「それって、どういうことですか?」
わたしは身を乗り出す。
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