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「まあ、わたしにも原因があるかもね」
わたしは神妙な顔をしていただろう。
「九州支社に転勤になった時、その支社で働いていた事務員の子で、なんか、互いにそいう関係になって...」
「で、その子とは寝たの?」
満は黙ったまま、俯いた。つまり、これは肯定しているということだ。
「そうかあ。そう言えば、ラインも九州支社に出張してから少なくなったものね。そんな時に彼女とよろしくやってたわけね」
「ごめん」
「いいよ。構ってあげられなかったわたしも悪いんだから。あのね、わたし、妊娠したんだ」
満は驚きの表情をした。
「あ、でも、満の子じゃないから。204号室の子どもだから」
「そうか...。おめでとう。というのも変か?」
「ある意味、おめでとうかも。わたし、なんだかお腹の中の子どもが愛おしくなって。ああ、母性って感じ。わたし、母親になれるかな」
「本当に産むつもりなの?」
「当たり前でしょう。未婚でも子どもを育てる自信はあるわ」
わたしのお腹は見る見るうちに大きくなり、悪阻もひどくなって、執筆すらできない日々が続いた。
実家から母親が世話を焼きに来た。
母親は誰の子どもかは訊かなかった。満とは別れたことは告白した。母親は満のことをあまり、好いてはいなかったらしく、真実は仕事に邁進しなさいと発破をかけた。
母親はよく言っていた。男に依存するようではダメだと。母親はいわゆる職業婦人に憧れていた。叶えられなかった夢をわたしに託すようになった。
「お母さん、ありがとう。だいぶ楽になった」
「あまり無理してはダメよ」
「お母さん、悪いんだけど、ホテルかどこかに泊まってほしいの。この部屋に住み続けると、お母さん、妊娠しちゃうから」
母親は何を言っているんだという顔をした。
「わたしが妊娠?もう、六十手前よ。そんなことあるわけないでしょう」
わたしは冷静になって考える。もし、わたしのお腹に宿った子どもが以前、ここで亡くなった子どもなら、母親が妊娠することはないのかもしれない。
そう言えば、提供者はシングルで暮らしていた。部屋をシェアしていたら、どうなるんだろう?
わたしは無事、男児を出産した。母親は何も起こらなかった。
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