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違和感。
「じゃあ同期会とかには行かれました?」
「結婚式以外は全然。付き合いを悪くしている内に、式にも呼ばれなくなっちゃった」
「でも今回の二十周年記念パーティにはいらしたのですね」
「案内は来たし、この歳になったらもう大丈夫かなって思ってさ。いい機会だと捉えて参加したのだけど」
首を傾げる。ちょっと意味がわからない。
「もう大丈夫?」
「自分なりに大人になって、落ち着いたかなって。だから君や後輩達に会っても平気かなって。そう、予想したのだけど。どうやら人間の性質というものは変わらないらしい。今、君と言葉を交わしてはっきりと自覚したよ。ありがとう」
急にわけのわからない話が始まった。曖昧に笑い、そうですか、と応じて誤魔化す。
「高橋さん、困っているね」
「そりゃあまあ。むしろ居島さんこそ酔っ払っていませんか?」
「酔ってはいるよ」
「だからそんなよくわからないことを仰るのです。ほら、お水を飲んで下さい。店員さんに頼みましょうか?」
私の問いにゆっくりと首を振った。必要はない、と落ち着き払った声が聞こえる。
「でも大分酔っ払っていますよね」
「そう見える?」
「外見は変わりませんけどお話の内容がしっちゃかめっちゃかですもの」
遠慮なく指摘する。七年ぶりの再会とはいえ学生時代は随分仲良く接していた。それこそ飲み会や、合宿での宴会では、居島さんと二人で隅の席に座り静かにお喋りを楽しんだ。居島さんはたった二つしか年上なのだと思えない程落ち着き払っており、私の目には立派な大人であるように映った。時事ネタからサブカル、哲学的思考からアニソン歌手の経歴など、幅広いネタに対して自分の考えや分析結果を持っており、けれども此方が話を振るまで決して口には出さず、膨大な知識をひけらかすような真似もしなかった。だから私が色々訊いて、穏やかな口調で応じて貰うのが常だった。大学一、二年の時しか一緒にいなかったけど、私はこの先輩に懐いていた。そう、七年も間が空いてもすぐに正面へ座ろうと思うほどに。
おかげでガッカリしてしまう度合いも大きい。昔は酔っても変なことを口走ったりはしなかったのに、今の居島先輩の言動は支離滅裂だ。年齢と共にお酒にも弱くなったのかな。なんにせよ残念でならない。
「高橋さん、引いているね。だけど僕がこんな話をするのには理由があるのだよ」
こんな話、って表現するのはそれってつまり。
「私を戸惑わせている自覚はあるのですね?」
「あるがままを語っただけなのだけれども、聞き手側がどう受け取らざるを得ないのかくらい想像は出来るよ」
「だったらわかりやすく説明をして下さい。どうして今までは集まりに参加しなかったのか。居島さんは何が大丈夫だと思って今日いらっしゃったのか。何故私と話をして、人間の性質は変わらないという確信を得たのか。言っておきますが、私は一つもわかっていませんからね」
つい口調が厳しくなる。責めたいわけではないのだけど、居島さんを慕っているから余計に感情も揺れてしまう。
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