連絡先。

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連絡先。

 わかった、と居島さんは一口お酒を飲んだ。そしてスマートフォンを取り出す。何やら操作をすると、私へ画面を見せた。 「連絡先、ですか」 「そう。小、中、高、大、社会人。あとは親類。六つに分けて保存している。この中の、大学時代、を選ぶよ」  フォルダを開く。其処には知っている名前がたくさんあった。確認してご覧、とスマホを渡される。 「何をですか?」 「いいから、取り敢えず全て見て。終わったらわかるよ」  いよいよ行動にまで影響が出て来たのかも、と訝しがりながら画面をスクロールする。先輩や私の同期、そして後輩達の名前。勿論、知らない人もたくさんいる。そのフォルダを最後まで見終えた私は、慌てて一番上まで画面を戻した。もう一度、目を凝らして一件ずつ確認をする。だけど結局、二巡目も終わってしまった。ゆっくりと顔を上げる。居島さんの変わらない笑みに背筋が寒くなる。 「私の連絡先が、ありません」 「そうだよ」 「え、と。ちょっと待って下さい。連絡先全体を検索してもいいですか」 「どうぞ。出て来ないけどね」  逸る気持ちを押さえて、佳奈と自分の名前を打ち込み検索をかける。連絡先はありません、と無情な通知が表示された。 「なん、で」 「メッセージアプリも確認しようか」  差し出された手にスマホを返す。気付けば鼓動が速くなっていた。ややあって、再び画面を見せられる。それは何年か前に開かれた、居島さんとその一期下、そしてうちという三代合流の飲み会開催用に設定したグループのページだった。メンバー一覧に、kana.tという私のアカウントとアイコンに指定している写真が載っている。居島さんの指が私のそれをタップした。 『登録されていないアカウントです。連絡帳へ新しく登録をしますか』  ね、と肩を竦める居島さんの表情は変わらない。わかりました、と私は必死で絞り出した。 「誤解していました。私、居島さんと仲が良いつもりでした。でも居島さんにとっては鬱陶しいだけだったのですね。どうもすみませんでした。もう貴方に話し掛けたりはしません。では失礼します」  立ち上がりかけた私に、それは違う、と声が掛けられる。 「違わないでしょう。だって連絡先から消されています。学生の頃は確かにメールや電話でやり取りをしていました。メッセージだって送った覚えがあります。だけど今は何処にも残っていない。私が嫌いであるとしか考えられません」 「感情的になる気持ちはわかる。でも事実は正反対だ」 「何が正反対なのですか」  叫び出したいのを懸命に堪える。 「僕は君が好きだ」 「……はい?」  完全に想定外の台詞が飛んで来た。反射的に聞き返す。僕は君が好きだ、と居島さんは寸分違わず繰り返した。
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