ふるえる

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一年後。 成瀬先輩の訃報を受けたとき、 冴子は付き合っている彼と一緒にいた。 冴子は、言葉を失った。 冴子に連絡をくれた友人は 「理由はよくわからない、急な心不全らしいけど」 と。 先輩は東北出身だ。 最後のお別れをしに、東北まで行くべきか。 冴子は散々悩み、結局、通夜にも葬儀にも行かなかった。 行けなかった。 合わせる顔がない。 その上、サークル引退後、誰にも話さずこっそり秘密で会う関係になったのだ。だれも冴子が成瀬先輩と親しかったなどと思うまい。 事情を知っていそうな者たちは皆、冴子に言葉を濁した。 それはすなわち、周りからみた冴子と先輩の関係の遠さを表していた。 そんな状況で、同期でもなく、同じ役職だったわけでもないのに東北までかけつけるのも不自然だ。 今の彼にも説明できない。 内縁の妻とか不倫関係って、きっとこんな感じなんだろうな、と冴子は漠然と思う。 どんなに愛し合っていたとしても、公にできない付き合いである以上、相手に何か起きても真実を何も知らされない関係。 仕方ないのだ。 冴子はひっそりと先輩への想いを封印し、「今」を生きていくしかないのだ。 先輩がどんな気持ちで冴子と一緒にいたがったのか、知る術はもはや存在しない。 それから3年がたった。 サークルの飲み会に顔を出したとき 成瀬先輩の話になった。 「あれから3年たったんだな」 だれかがポツリといった。 「ここにアイツがいないのが残念だ」 冴子は意を決して、 「結局、何があったんですか、ご病気だったんですか」 と、聞いた。 場が、しん、とした。 ついに美沙先輩が 「彼は坊やだったのさ」 とつぶやいた。 そうか。 だからみんな濁したんだ。 もし、あのとき冴子が研究室を休んで成瀬先輩に会っていたら、事態は変わったのだろうか? 冴子から連絡をとり、彼を励ませばよかったのだろうか。 彼を死なせたのは冴子なのだろうか。 そう考えると、震えが止まらなかった。 了
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