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「ヘッジ様」
ムジナが部屋を出てすぐのことだ。
バルディが暗闇から姿を現した。
「バルディ、お前も早く寝なさい」
「……また渡しそびれたのですか?」
バルディは書類と書類の間に挟んでいたチケットを指した。
「黒池にもらった水族館のチケット……ムジナはヘラと行った方が良いんだろうな……」
「そんなことないですよ。さっき、嬉しそうに笑っていましたからね。お兄ちゃんと話せたって」
「本当か!?」
「もう。書類、バラバラにしないでくださいよ。ですが……元気を取り戻したみたいで良かったです」
バルディは落ちた書類を拾ってまとめながら笑った。
つい勢いで立ってしまった……。この癖、直さないとな。
「……いつもありがとうな、バルディ。こんな俺についてきてくれて」
死神王として半人前にも満たないのに、『死神王』だからという理由でここに来たバルディ。そこまでの価値を俺に見い出せないし、まず継承者が俺しかいなくなってしまったから死神王になったというのに。よくついてきてくれるものだ。
「当然じゃないですか。私はどこへでもついていきますよ」
俺とバルディは互いに笑い合ったあと、俺はお猪口を見た。
そこには月が照らし出されていた。
「ふふ……。月を呑む、か。バルディ、お前も一杯どうだ?」
「……付き合いますよ、ヘッジ様」
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