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「あら、ムジナ、プチトマトが気になるの?食べていいわよ」
スクーレはエプロンにかけたタオルで手を拭きながらこっちに歩いてきた。……オレも手伝えればいいんだけどな。
「スクーレ、料理作ってたんじゃ……」
「そろそろ終わるわ。今オーブンで焼いてるとこ。レインもプチトマト食べる?」
「いただこう」
オレもプチトマトに手を伸ばす。
スタンダードな赤や珍しい黄色、黒などのプチトマトがある。オレはその中の赤を手に取った。
ムジナは黒を持っている。さっき「赤くてちっちゃくてかわいい!」とか言ってなかったか?もう飽きたのか?
「んー!美味しいね、レイン!」
ムジナはヘタを片手に幸せそうな顔をしている。
「もう食ってんのかよ!……はむ……んぁ、美味しいな。もぐもぐ」
「急がなくてもいっぱいあるからね」
スクーレはお盆を持ちながら笑った。
…………しばらくして皿がヘタでいっぱいになった頃、料理が完成してテーブルに並んだ。
スパゲッティやオムライス、サラダなどがある。それをムジナは身を乗り出し、目を輝かせた。
「わぁ、どれも美味しそう!人間の食べ物って悪魔のより随分美味しそうだね!」
「そう言ってもらえると作った甲斐があるわ」
スクーレは手を拭きながら後ろを見て笑う。
あぁ、なんて平和な世界なんだろう。
「えへへー、いっただっきまーす!」
「オレも食べる!いただきます!」
ムジナとオレは手を合わせ、フォークを使いながら食べ始めた。
まずはスパゲッティ。麺がもちもちで、すっぱいはずのトマトが甘い!
やはり人間の食べ物は美味しい!
「おやまぁ、良い食べっぷりだ。悪魔は皆こうなのかね?」
「はは……この二人が変なだけですよ」
先程のおばさんのリアクションに、スクーレは苦笑いする。てか変ってどういうことだ。
一方バルディはコップに冷えた麦茶を注いでいる。
「二人とも、喉を詰まらせないでくださいね」
「バルディも食べる?」
ムジナが赤くて丸い目をバルディに向ける。……ムジナの目、プチトマトみたいだな……。
「仕事中ですので遠慮します」
バルディは少し困った顔をした。
「まあまあ、お兄さんも食べていきなさい」
バルディの答えを聞いたおばさんは、作りたてのハンバーグをテーブルに置き、バルディの背中を押して座らせた。
「え、ええっ……!?」
当然バルディは困惑している。
「いいじゃない、食べてみなさいよ」
スクーレが笑いかける。
「うぅ………………そうですね。いただきます」
根負けしたのか、バルディはナイフとフォークをドラゴンソウルの手で持って食べ始めた。……って、よくその手で使えるな!?
バルディは少し遠慮がちに、小さく口を開けてハンバーグを口にした。
みんなが見守るなか、もぐ、もぐ……と咀嚼している。
そして……。
「ぁ……美味しい……!とても美味しいです!一体どうやったらこんなに美味しいものが作れるんですか?!」
バルディはこれまで見たことない表情を浮かべた。
──なんだ、いつもみたいな堅苦しい表情以外もできるじゃん!
「やっぱり愛情だね」
「愛情、ですか。執事の立場である以上、難しいことですね……。…………あの、つまり人間のあなたが私たち悪魔にも愛情を注いでくれた、ということでしょうか?」
バルディが意外だとおばさんの顔を見る。
「それ以外何があると言うんだい?たとえ執事さんでも、死神さんや呪術師さんでも愛情を注ぐ対象にはなるんだよ。それが悪魔であってもね」
「おばさん……!」
いつしかバルディだけでなくムジナやオレ、スクーレまでもが手を止めておばさんの方を見ていた。
種族の垣根を越えたその思考……オレも大事にしたい、そう思った。
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