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ヘラが庇うように前に出た。
「わっ!ごめんよ」
ヘラの声に退き、謝った直後────。
「触るな、呪術師」
「喋った!?」
剣が喋った!!
動くだけではなく、喋ったのだ!まるで生きているように!!
「動いただの喋っただのうるせぇな。マスター、こいつらは何だ?」
「あ、あの!僕たちは敵じゃないです!」
サニーが前に出る。とりあえずオレは警戒しておこう。ヘラの武器だからとはいえ、こいつのことは何も知らない。何をしてくるかわからない。
サニーの言葉に廻貌は動きを止め、オレたちを値踏みするかのようにフワフワと浮き上がる。
「む……本当のようだな。そっちのザコはただ警戒してるようだが……」
「ザコって言うな!剣の分際で!」
「ザコはザコだ。そっちの青い髪の奴より魔力が少ないじゃないか」
「口が過ぎるぞ、廻貌!……ごめんな、こういう奴なんだよ」
ヘラが廻貌を叱る。だが、廻貌は回り続ける。知らんぷり、というわけだ。
「ヘラさん、それ……憑いてるのがあまり良いものではないようですね」
サニーは怒らせてしまわないか?と恐る恐るヘラに問いかけた。
「やっぱりそう思うか?廻貌は地下世界から来たらしいからな」
サニーは『地下』と聞いて目を丸くした。オレも驚いたが……そうか、地下か……。
「地下ですか?なんとまぁ良くないものが住み着いてそうなところで……」
「地下は危険だぞ。サニー、ヘラ。危ないから行くなよ」
「「その口で言わないでよ」」
「ダブルアタックは胸に刺さります……」
オレは落ち込みながらも頭の中で考えていた。
地下世界……か。一度行った者は帰って来ないと聞く。現に、コルマーの酒場にいた馬鹿のうち一人が地下世界に行くと言って帰って来なかった。そんなところに二人を行かせるわけにはいかない。
「ザコ。邪魔をするなら容赦はしないぞ」
「だからザコって言うな!それに邪魔をするほど暇じゃないんだよ、オレたちは。な、サニー」
「はい!僕たちは妹を救うためにノートに立ち向かうんです!」
サニーがヘラと廻貌に向かって言う。
すると廻貌は回転を止め、オレとサニーを交互に試すように見た。
「ふん、ノートか。めんどくせぇ奴と敵対してるんだな」
「ノートのこと、知ってるのか?!」
オレたちは前のめりになる。廻貌はそのまま話を続けた。
「知ってるも何も、地下世界で知らん奴はいないからな。まさか地上の方が知名度低いとは……。遠い方が天の憧れが強いっていう皮肉かもしれんな」
廻貌はまたくるんと回った。
「ねぇ、弱点とか知らない?」
「知るわけねぇだろ」
「だよなぁ」
知っていたら、もうすでに倒されているはずだ。憧れとか言ってるが、誰があんなヤツなんか……!
「倒そうとしているのだろう?言っておくが、今のお前じゃ無理だ。それにお前のその呪いの剣……お前にはもったいない」
廻貌はオレを見たまま言った。
呪いの剣……あまり使わない太い剣のことだろう。確かにあれは呪われている。それに使いにくいからレイピアをよく使ってるんだけど……。
「ぐ……!それでもオレは、妹を取り返すんだ!」
「お兄ちゃん……」
「……行こう、サニー。その……いろいろありがとうな、ヘラ」
サニーには申し訳ないが、オレはやってやるぞ。止めないでくれ……。
「いいよ。気をつけて。俺も出来る限りのサポートはするから。今までのお返しにさ」
ヘラは微笑んだ。
それはあの旅の中では決して見せることがなかったものだ。
なので新鮮だった。
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