第1話 静かな戦い

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「……お兄ちゃん、ごめんなさい。巻き込んじゃって……」  サニーは悲しそうな顔をした。 「当然のことさ。それより、場所の目安はついてるのか?」 「うん。使い魔が海の方向で何か黒いものに殺されたらしいんだ。その黒い奴は多分あの化け物だと思うんだ」 「あの化け物……?」 「見ればわかるよ」  サニーは笑顔で話す。だが、それは作り物の笑顔ということは火を見るよりも明らかだ。 「黒いもの……何か思い出しそうなんだけど……」 「無理だよ。お兄ちゃんには記憶消去がよく効いてる。思い出すなんて絶対不可能だよ」 「……そうか。薬でもダメだったもんな」  薬とはナニルがくれた薬だ。そういえばあの人はどこに行ったのだろうか。 「お兄ちゃんにはずっと能天k……じゃなくて、笑顔でいてほしい」 「……ちょっと変な言葉が聞こえたけど良しとするか。……さて……アナスタシア。そこにいるんだろう?」  オレは何もない虚空を見つめる。そこにドレスを着た、見るからに不健康な女性が現れた。 「ふふ……やっぱり廻貌は苦手ですわ」 「お兄ちゃん、この人は?嫌な気配を感じるんだけど……」  サニーは敵意を露わにし、アナスタシアを睨んだ。 「(わたくし)は睡魔のアナスタシア。一度眠れば、そこは冥界ですわ」 「睡魔のアナスタシア……?どこかで聞いたことが……。でもどうしてお兄ちゃんが名前を知ってるの?」 「……サニー、お前は優しさに触れすぎた。……眠って全て忘れなさい」  サニーは警戒している。  オレはアナスタシアに眠らせるように指示するため、片手を上げた。アナスタシアは一歩、サニーに近付く。 「お兄ちゃん……どうして……」 「サニー。私の幻術は何よりも強い。ノートだって届かない。このお兄ちゃんは本当にあなたが知っているお兄ちゃん?あのインキュバスは本物?……保証できないでしょう?そういうことなのよ」  アナスタシアは意地悪く笑う。 「……でも寝たら死んじゃう──そうですよね?」 「死なないように努力する。難易度は……そう、針の穴にラクダを通すようなもの……。もしも目が覚めたのなら、次は死神王を頼ればいいんじゃない?……幸運を祈ってるわ」  アナスタシアは薄ら笑いを浮かべる。  すぐに白い光が瞬いた。サニーは必死に寝ないようにと耐えている。  ……その目は、オレを絶望と不信感の塊として見ているようだった。  ──あーあ。お兄ちゃんのことも、周りの人も、信じられなくなっちゃったね。 「おにい、ちゃ……たすけ…………」  次の瞬間。哀れなサニーは倒れ、寝息を立て始めた。
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