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「……お兄ちゃん、ごめんなさい。巻き込んじゃって……」
サニーは悲しそうな顔をした。
「当然のことさ。それより、場所の目安はついてるのか?」
「うん。使い魔が海の方向で何か黒いものに殺されたらしいんだ。その黒い奴は多分あの化け物だと思うんだ」
「あの化け物……?」
「見ればわかるよ」
サニーは笑顔で話す。だが、それは作り物の笑顔ということは火を見るよりも明らかだ。
「黒いもの……何か思い出しそうなんだけど……」
「無理だよ。お兄ちゃんには記憶消去がよく効いてる。思い出すなんて絶対不可能だよ」
「……そうか。薬でもダメだったもんな」
薬とはナニルがくれた薬だ。そういえばあの人はどこに行ったのだろうか。
「お兄ちゃんにはずっと能天k……じゃなくて、笑顔でいてほしい」
「……ちょっと変な言葉が聞こえたけど良しとするか。……さて……アナスタシア。そこにいるんだろう?」
オレは何もない虚空を見つめる。そこにドレスを着た、見るからに不健康な女性が現れた。
「ふふ……やっぱり廻貌は苦手ですわ」
「お兄ちゃん、この人は?嫌な気配を感じるんだけど……」
サニーは敵意を露わにし、アナスタシアを睨んだ。
「私は睡魔のアナスタシア。一度眠れば、そこは冥界ですわ」
「睡魔のアナスタシア……?どこかで聞いたことが……。でもどうしてお兄ちゃんが名前を知ってるの?」
「……サニー、お前は優しさに触れすぎた。……眠って全て忘れなさい」
サニーは警戒している。
オレはアナスタシアに眠らせるように指示するため、片手を上げた。アナスタシアは一歩、サニーに近付く。
「お兄ちゃん……どうして……」
「サニー。私の幻術は何よりも強い。ノートだって届かない。このお兄ちゃんは本当にあなたが知っているお兄ちゃん?あのインキュバスは本物?……保証できないでしょう?そういうことなのよ」
アナスタシアは意地悪く笑う。
「……でも寝たら死んじゃう──そうですよね?」
「死なないように努力する。難易度は……そう、針の穴にラクダを通すようなもの……。もしも目が覚めたのなら、次は死神王を頼ればいいんじゃない?……幸運を祈ってるわ」
アナスタシアは薄ら笑いを浮かべる。
すぐに白い光が瞬いた。サニーは必死に寝ないようにと耐えている。
……その目は、オレを絶望と不信感の塊として見ているようだった。
──あーあ。お兄ちゃんのことも、周りの人も、信じられなくなっちゃったね。
「おにい、ちゃ……たすけ…………」
次の瞬間。哀れなサニーは倒れ、寝息を立て始めた。
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