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「……『お兄ちゃん』?」
「この少女がもしかするとレインたちの妹かもしれないという可能性が出てきたんだ」
「えぇ?力のバランスがめちゃくちゃじゃん。あり得ないって。違う人の妹じゃないの?」
……でも、言われてみればそんな気もしなくもない。一度そう思ったのは認めるけど、本当に合っているのかわからない状態で決めつけるのも……。
「そうか……そう、だよな。あのレインがこんなかわいい子を放っておくわけないもんな」
「うんうん!あとお兄ちゃん、その発言はヤバイよ」
お兄ちゃんはオレの言葉に目を丸くした。
「はは……。とにかく!夜道と一人での外出には気をつけること!いいね?」
それくらいはいつも気をつけている。ヘラからもいつも言われてるし、身についてることだ。
それより……。
「……もしかしてお兄ちゃん、これだけのために起こしたの?」
もしそうなら一発殴らせてもらわないと……。
いやいや、眠すぎるからできないや。
なかなかの策士だなぁ、お兄ちゃん……。
オレはまたあくびをし、目をこすった。
「だってさ、ムジナってば朝早くからヘラんとこ遊びに行っちゃうじゃん……。言う時間無いでしょ」
と言いつつお酒をあおる。
これは定期的に黒池が持ってきてくれる日本酒だ。お兄ちゃんは日本酒の透き通る感じが好きだと言っている。オレにはよくわからないけどね。
「それはお兄ちゃんが遊んでくれないからだよ」
「俺だって忙しいのぉー!ねぇムジナぁ、遊んでぇ」
「うわわっ、書類が落ちてるよ!」
書類だらけの机にぐでぇーっと力なく倒れ込むお兄ちゃん。……いつからこんなダメ人間……いや、ダメ死神になったのだろうか。
「いいじゃない、ムジナ。たまには遊んであげても」
「リメルアまで……」
天井の方でリメルアがクスクスと笑っている。リメルアはお兄ちゃんと結婚し、オレの義姉になった。
なぜリメルアが独房から出ることができたのかというと、オレの義姉だからという理由だそうだ。ライルってば、オレには甘いんだから。おおかた「ムジナが悲しむ」とか言ったんだろう。今までお兄ちゃんを待って、一人に慣れているから悲しむわけないし、ヘラだっているから大丈夫なのに。
「呼び方が違うわよ。ママ、でしょ?」
「そうだぞ。立場的には義姉だけど、俺はお母さんを作ろうとしていたからね」
二人が笑顔で詰め寄る。いや、実際には詰め寄って来てはいないのだが、圧がすごくてそう見える。
そ、そう言われても……!!
「うぅ……」
言葉が詰まる。でも、何か言わなきゃ!!
……そして出た言葉は………………。
「お、お姉ちゃん……」
「ふふ、まだまだね」
いつの間にか復活していたお兄ちゃんとリメ……お姉ちゃんはオレを優しく見つめる。
何というか……心がほわほわする。吸血鬼の魔力なのか、それとも……。
「ほら、お姉ちゃんが寝室まで連れてってあげるわ」
お姉ちゃんはオレに向けて手を差し出した。『あの』ヘラと仲の良いオレが相手だというのに、怒ったりしていないところを見るに、その辺りは深く考えなくても良いんだと思った。
「お兄ちゃんは寝ないの?」
「お兄ちゃんは半分吸血鬼だから寝ないのよ。ね?」
オレと手を繋いだお姉ちゃんはお兄ちゃんの方にウインクする。お兄ちゃんはまたお猪口を手に持つ。……いつまで呑み続けるのだろうか。
「……そうだな。ムジナ、おやすみ」
「うん……おやすみなさい」
お兄ちゃんはドアが閉まる直前まで、オレに向けて笑顔で手を振り続けた。それだけでオレは……嬉しかった。
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