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二
「もー!何回も云っているだろ!
初対面の女の子をむやみやたらに触らないの!
キラわれるだけって、どうして分からないかな!」
「いったああああ!あー!顔に火傷したあ!
どーしてくれんの!どーしてくれんの!
女の子が怖がって、近寄らなくなったら、どーすんだよ!どーすんだよ!
一生、童貞になるかもしれねーじゃん!
そしたら、どー責任とるつもりだよ!ばーか!ばーか!」
「一日経ったら、消えそうな傷で『お嫁にいけない!』みたいに騒ぐな!
仲間は、日日の戦闘で傷だらけなんだぞ!
ていうか剣士なんか、その傷あって、女の子に『ステキ・・・』って見惚れられてんだ!
モテたいなら、見習ったらどうだ、ばーか!ばーか!」
「ばーか云ったヤツがばーかなんだ!ばーか!ばーか!
ていうか、そんなの嘘だもんね!
俺を戦わせるために、そそのかそうたって、そんな見え透いた嘘に引っかからないよーだ!」
「じゃあ、嘘かどうか、その身でたしかめてみろ!」
「え!?い、いったああああああ!
や、やめろおおお!ちくちくびりびり全身にはやめてええええ!」
会社にハラスメント漬けされた元社蓄が、勇者をお説教して、正しい道に導けるのだろうか・・・。
と心配だったのが、今日も今日とて、お節介かかあな妖精として、ぶいぶい云わせている。
まあ、前世の理不尽な虐げに比べたら、ヘタレ泣き虫勇者、ロイドの地団太なんて屁の河童。
会社は利益追求のため、俺をだまして踏みにじっていたが、ロイドはわがままなだけで、ずる賢くも腹黒もなかったし。
それにしても、幼児のように手加減なく泣き暴れるロイドに、あまり苛立たないのが意外。
前世で漫画を読んでいたときは、癇に障るキャラだったのだ。
社蓄として必要以上に我慢を強いられていたから、我慢とは無縁なふるまいが、尚のこと目に余ったのだろう。
いざ、生きた人としてのロイドと接してみると、そりゃあ、手を焼いたとはいえ、どれだけ迷惑をかけられ「フィナのばーか!」と罵倒しかえされても、嫌気がささず。
いつまでも反抗的態度を崩さないし、おこないを改めないし、憎たらしいままというに、どうしてか愛着が増していっている。
報われず感謝されず、むしろ鬱陶しがられようが、ロイドのためになるなら、憎まれ役を貫こうと思うほどに。
漫画のフィナの設定「勇者がいかにポンコツでも、恩人なのは揺るぎがないこと」との認識を受け継いでいるからなのか。
だけ、ではないように思いつつ「旅の資金で貢ぐなあ!」と説教と電撃で勇者を追いかけまわす日日を、社蓄時代より生き生きと過ごしたもので。
漫画のころに比べたら、性別が変わったこともあって、当たりが強くなったが「こんなに男をびりびりさせる子は、お嫁にいけないぞ!(いや、今は男なのだが)」と憎まれ口を叩くのはロイドだけ。
仲間や周りの人は「フィナがいないと、勇者はだめだな」としみじみと肯いてくれるなど、人間関係は良好。
たまにロイドが珍事件を巻きおこす以外、冒険の進行も順調。
前世とは別世界のはずが、社蓄時代のほうが悪夢だったように思うほど、ファンタジーライフが肌に合って、みるみる馴染んでいって。
このまま勇者の口うるさい女房役として、問題も不服もなく人生を歩めるかな!
と思っていたのだが。
真夜中の宿屋でのこと。
急な発熱と、ひどい体のむず痒さに、目を覚ました。
覚えのある感覚に「まさか」とタオルをめくって見れば、パンツにテントが張っていて。
「妖精って性欲があるし勃起するの!?」とパニック!
全年齢対象の健全なファンタジー漫画に、もちろん性的な描写はなく。
いや、転生してみて「あ、妖精も生々しい一物あるし、だすもんはだすんだ」と驚いたが、にしたってさあ・・・。
たしかに、浮世ばなれしたキャラたちの生理現象はどうなっているのかなと。
たまーに、極たまーに、気になることがあったとはいえ、目の当たりにすると、夢が壊れるというか。
げんなりするも、萎えてくれない。
タオルにくるまって、鎮めようとするも、むらむらむずむずするばかり。
むごい現実を無視したくても、気合ではどうにもならず「くそ!」と起き上がり、ふり向いた。
そばのベッドでロイドが涎を垂らしてグースカ。
ベッド脇のテーブル、そこに乗かれた籠が俺の寝床。
この距離で、しかも(仮にも)勇者の隣で、お供の妖精が一人エッチなんて、それこそファンタジーにあるまじき光景。
ひどく体が気だるく、熱で目が回りながらも、どうにか浮きあがって、ふらふらと窓へ。
開いた窓の前まできて、熟睡するロイドのまぬけ面を見てから、暗い森に向かった。
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