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08故郷の壊滅
「まぁ、ちょっとあの掘っ立て小屋は惜しかったかもな」
「あの小屋はもしかして、ロンが建てたの!?」
「そうだよ、十五歳になったらお前の担当は、この海辺ってほっぽりだされたんだ」
「だからあの掘っ立て小屋、建て方がぐしゃぐしゃだったんだ」
「こっちはアビス倒す練習しかしてないのに、必死に材料運んでどうにか二年であそこまでしたんだぞ!!」
「そうか、ロン。それじゃ、泣いていいよ」
「あっ、あれっ」
「ここは泣いても安全だよ」
俺は掘っ立て小屋のことを思い出したら、仲間だったハンターたちのことも思い出した。俺に良くしてくれた食堂のおばちゃんや、あの村に住む皆の顔が頭に浮かんで、気がつくとボロボロと俺は泣いていた。そうだ、ティールやアコールのことだって本当は心配だ、従兄のダリルだって煩い男だが生きてて欲しかった。
「泣いてるロンもセクシーだね、僕と楽しいことしてみない?」
「ははっ、馬鹿が!? そんなことしねぇつーの!!」
「ロン、実際には助けにいけないけど、彼らのことを考えるのは自由だよ」
「そんじゃ、ティールは生きてる!! 食堂のおばちゃんやアコール!! ついでにダリルや他のハンターも生きてる!!」
「可能性は少ないけどなくはない、でもそこでティールさんの名前が出るの妬けちゃうな」
「だってティールは幼馴染で、昔は俺と同じくらい強かったから!!」
俺はいつの間にかオウガに抱きしめられていた、俺が昔子どもだったオウガにしたように、よしよしと優しく俺の頭を撫でられていた。その腕が心地良かったから、俺は思いっきり故郷を思って泣いた。実際には壊滅したとしても、それでも俺の故郷だったことには変わりないのだ。オウガは本気がどうか分からないようなことを言いながら、涙が流れてくる俺を優しく抱きしめていた。
「このまま感動したロンが、僕を押し倒してもいいよ……」
「そんなことしねぇよ!!」
「それは残念だ、ロンの掘っ立て小屋も残念だね」
「ああ、思いっきり泣いたら気がすっきりした」
「こういう時に優しくしておくと、僕に恋したりしない?」
「だからしねぇっての!!」
オウガが思いっきり泣かせてくれたおかげで故郷への諦めがついた、もうあのカリニ村は助けられないが俺の故郷には違いない、もう二度と戻ることはないだろうが大切に想っていてもいいのだ。そうやって泣いてスッキリした俺に、オウガが今夜は一緒に寝ようと言いだした。というか風呂付の宿屋を借りてから、ずっとベッドを並べて俺たちは一緒に寝てた、男にある性欲はこっそり風呂場で発散していた。
「ロンと一緒に寝るの久しぶりだ!!」
「お前は大きくなったよな、でも筋肉がつかないけど」
「これでも鍛えてるの知ってるでしょ、体質なんだよ」
「お前の父親はムキムキのおっさんなのになぁ」
「僕がああでなくて良かったよ、あれじゃロンに相手にして貰えない」
「さすがにアレに迫られたら、俺は一目散に逃げるぜ」
そんなことを言いつつ俺たちは一つのベッドで久しぶりに一緒に寝た、昔の可愛いオウガの夢を見て俺はそんなオウガを抱き上げて可愛がった。カリニ村の皆も夢に出てきた、俺が出て行く前と同じように皆が普通に生活していた。俺たちがカリニ村壊滅の知らせを聞くのは、それから一週間が過ぎた頃だった。
「ロン、大丈夫?」
「まぁな、覚悟ができてたからな」
「泣きたい時には僕の腕はいつも空いてるから!!」
「もう泣かねぇよ!! いつまでもべそかいてられっか!?」
「それもそうだね、僕たちは首都テンプルムに行くんだし」
「おうよ!! このナトールの国の首都だぜ!!」
どうして俺たちが首都に行くことにしたかというとだ、ここのハンターとじゃあまりにも俺たちは腕が違い過ぎた。これじゃ簡単な練習試合もできない、だから首都のテンプルムに行ってみることにしたのだ。どうせだからとテンプルムに行く商隊に雇ってもらった、これで飯は出して貰えるらしいし、テンプルムまで迷わずに済むのだ。
「あとは盗賊なんかに気をつけなきゃな、アーツの使用も自分の命が危ない時には対人でも許可されてる」
「ロン、やっぱり盗賊っているの?」
「大丈夫だ、俺が盗賊退治の経験がある。村の近くに出た時に数人だが殺したことがある」
「それなら安心だ、人もアビスも同じかな」
「むしろオウガ、お前の方が俺は心配だ。人殺しはしたことねぇだろ、誰かに襲われたら死ぬ寸前まで痛めつけとけ、止めは俺がさすからさ」
「たっ、確かに人殺しの経験はない。でも僕もできるようになるよ、盗賊が怖くてアビスハンターは務まらないよ」
商隊は俺たちと他に二人のハンターを雇っていた、二人とも女のハンターだった。長い金の髪に蒼い瞳をした方がティカ、長い銀の髪に緑の瞳をしている方がリンダだった。二人とも軽く挨拶を交わしておいた、ハンターとしては五つ星だというから、ちょっと腕が心配な護衛だった。俺たちが十つ星だというと、まさかと冗談だと思って笑っていた。後は商人が五人だった、俺は商隊護衛をしたことがないから護衛が足りてるのかどうか、さっぱり分からなかった。
「ティカです、本当は二人とも幾つなの星?」
「リンダよ、あたしも気になる!!」
「だから俺たちは二人とも十つ星だって」
「そうです、僕たちは嘘をついていません」
「まっさかー!! 十つ星なんて見たことないもん」
「そうそう幻のハンターだよ」
「それじゃ、俺には好きなように星をつけておいてくれ」
「僕もそれでいいです」
「さては私たちより星が下なのね!!」
「あたしたちがしっかり守ってあげるわ!!」
「はぁ~。そりゃ、よろしく頼む」
「………………面倒」
ティカとリンダとはちゃんと話ができなかった、十つ星のハンターとはこの辺りでは相当に珍しいものなのだろう、ちゃんと十つ星のハンターだと言ってるのに俺たちは全く信用されなかった。そうして首都テンプルムまでの旅が始まった、荷馬車を囲んで歩いていくだけの簡単な旅だった。ちゃんと朝、昼、晩と食事も出たし問題なかった、夜は俺とオウガが交代で見張りをした、どうもあの二人の女ハンターには任せるのは不安だった。
「アビスも盗賊も出なくて良い旅だな、オウガ」
「そうだね、たた彼女たちが煩い」
「未だに十つ星のハンターだって信じてないしな」
「多分、この辺りでは珍しいんだろうね」
「次の街で丸一日休憩だってさ、街を見に行こうぜ!!」
「それはいい、良い気分転換になるね」
その次に着いたのはサスワールの街だった、ここで荷物を降ろしてまた別の荷物を仕入れるらしい、俺たち護衛には丸一日の休みが出て俺たちはサスワールの街を見物に行った。まずは飯屋に入ったがラーメンとか餃子という料理が美味かった、この街の名物らしく俺は気に入った。オウガは相変わらず焼き魚とかパンを食べていた。
「うっわ、すっげえ公園」
「綺麗な花が咲いてるね、ここの名物らしいよ」
「確かに花はすっごく綺麗だけどさ、どうせなら俺は彼女と一緒に来たかった」
「ふふっ、相手が僕でごめんね。でも僕はとっても幸せだよ」
「はははっ、何が悲しくて男二人で花見をしなきゃならんのだ」
「僕にとっては、大好きなロンとの良い思い出だけどね」
そんなことを言って宿屋は風呂付のところを選んで俺たちは休んだ、オウガはカリニの村が壊滅した時一緒に寝てから、それから俺のベッドにもぐりこんでくるようになった。最初は俺一人で寝たと思っていても、いつの間にかオウガが一緒に寝ているのだった。俺の貞操は無事だったので、俺も面倒だからそんなオウガを追い出したりはしなかった。
「ああ、良く寝たな。オウガ」
「見張り番をしなくていい日は楽だね、ロン」
「オウガ、お前こっちのベッドに来るのを止めろよ」
「どうして? ロンと一緒の方がよく眠れるんだ」
「確かにお前がいれば安心するけどな」
「でしょう!! 何か遭っても大丈夫だよ!!」
俺は結局、オウガの良い笑顔で誤魔化されてベッドのことを追求しきれなかった。でも何か俺の何かが確実に減っているような気がした、そしてそれが減っていってしまうとまずい気もしていた。そんなことを考えながら俺たちは商隊の護衛に戻った、二人の女ハンターも休日を満喫してきたようだ、あたらしい装飾品や化粧品の話をしていた。
「おいっ、荷物と女を置いていきな!!」
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