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第14話
※お読みになる前に…この物語はフィクションであり、昨今の病院の面会・お見舞い事情とは異なる点がある事をご了承の上、お読み下さい。
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翌朝、大学へ行くと腹痛から蘇った田丸が来ていた。
「昨日は大変だったよ」
と田丸はちょっとげっそりした様子で言う。病院にも行ったようだ。
割木と大崎は2人とも来ていなかった。
しかし、田丸には2人のことは話さなくていいやと思った。話してもしようもない内容なのと、十夜の中でこの件はもう終わったと感じたからだ。
今日は大学が午前中で終わりなので、帰りに駅前のテナントに入っている携帯ショップに寄った。スマホは修理に出すことになったので、代替機を借りて帰宅した。
バイトに行くと、黒崎から「昨夜は大変でしたね」と労われてしまった。むしろこちらこそ夜中にすみませんでしたと重々にお礼を伝えた。
真夜中に除霊をしてもらった上、命の恩人なので謝礼を払わせてくれとお願いしたが、却下されてしまった。
ちなみに、十夜が最後に割木の生霊に投げかけた文句は、黒崎にも筒抜けであったらしい。
十夜は追い詰めれてたからとは言え本性丸出しで、それこそ羞恥で魂が抜けそうになったが、意外にも黒崎からは、
「水原くんは、なんだか昔の自分に似ているんですよね。私も同じ様なことを思ったことがあります」
となぜか絶妙にウケていた。
そしてその日は、バイトの間も、バイトから帰った後も、榛名は現れなかった。
翌朝、十夜は母親に「姉さんは大丈夫か、変わりないか」といったメッセージを送った。すると母親からは「大丈夫。回復してきている」という内容の返信が来たので、ひとまず安心した。
その日の夜も榛名は現れることはなかった。
そうして週末の金曜日になり、十夜は田丸に、
「今日この後、夜行バスで土日の間、東京に帰るんだ」
と話した。
田丸はにこにこしながら、
「お姉さんに会いに?」
と聞いてきたので十夜は驚いた。
十夜は田丸に榛名が事故に遭ったことは話していないが、義理の姉がいることは伝えている。親が籍を入れるのは十夜が20歳になってからなので、義理の姉「予定」であることも。
「頑張って」
と言われたので、
「うん」
と返した。やはり田丸にはなぜか見透かされてるところがあるようだ。
バイト先には急で大変申し訳ないが、家の事情で東京に戻るので土曜日だけ休ませてもらえないか伝えてあった。
日曜日は朝、大阪に着いたら少し休んでからバイトに行くつもりだった。
だが、バイト先からは土日とも休んでいいよと快く承諾をしてもらえた。来週からまた宜しくね、と言ってもらえたので気持ちがラクになった。
夜、十夜は大阪のターミナル駅で高速バスの集合場所に向かう途中、慣れぬ夜の街を歩いていることに少しドキドキした。ビルの照明で夜景がキレイだ。
集合場所でしばらくスマホを見ながら暇をつぶしていると、乗る予定の高速バスが到着した。
高速バスに乗るのは初めてだったのでことさらにワクワクした。
バスの座席に着いたあと、しばらくは窓から夜景を眺めていた。その内、周りがカーテンを閉め始めたのでそれに倣った。だんだんとウトウトしてきたので十夜は眠りについた。
途中、何度か首と肩と腰が痛くなって目が覚めた。途中、深夜にパーキングエリアに停まって寝ぼけまなこでトイレ休憩に行くのも、置いて行かれぬ様に早く戻らなきゃいけないんだよなとソワソワしたのも新鮮な経験だった。
再び眠りにつき、やはり首、肩、腰が痛くて熟睡とまでは行かなかったが、わりと良く眠れた感のあった十夜は、周囲に迷惑が掛からぬ様に、そっとカーテンの隙間から外の景色を見た。
空には、朝の光が差し込んでいた。
早朝の東京駅は、じめじめした7月ももうすぐ半ばと言えど、ほんの少し涼しい。
「天気が良くて助かった~」
十夜は固まった身体をぐいっと伸ばした。
電車を乗り継ぎ実家に戻ると、事前に帰ることは伝えていたのだが、母が驚いて出てきた。
「十夜、突然戻るって言うから驚いたわよ~」
と言いながらも嬉しそうだった。
「大学はどう?学生マンションは大丈夫?ちゃんと食べてる?」
まあよくある親の心配質問シリーズだ。
「どれも大丈夫だよ」
と一応安心させる感じの口ぶりでそう答えた。
病室の入口に立って、緊張がピークに達した。昨日からずっと緊張していたが、もはやどうやって入室していいかわからない。
(俺のこと覚えてるだろうか?幽体の時の記憶なかったらどうしよう……)
だが、ここでウダウダしている訳にもいかず、やはり心配であるので、十夜は思い切って病室のドアを開けた。
「遅い!」
入口で姿を見せた途端、榛名からそうぼやかれた。
「すんません」
「いつぶり?3日か4日ぶりぐらい?」
ベッドの背を上げて、上半身だけリクライニングさせた状態で榛名が笑った。
骨折した右足にはギプスが巻かれていると聞いていたが、今は上に布団が被せてあるため見えない。まあ自分は男性なので、心配とは言えあまりジロジロ見るのも憚はばかられるので、視線を外した。
病室は個室だと聞いていたので、話を聞かれる心配がないため安心だった。
「霊体だった時の出来事、覚えてるんですね?」
十夜が聞くと、榛名は、
「まぁね」
と答える。
「戻ったら忘れてるって言ってませんでしたっけ?」
「そうだっけ?」
ケロッと言う。
「ケガの治りはどうですか?」
十夜が聞くと、
「うん。跳ね飛ばされた割には、奇跡的に色々無事だったんで助かったわー。これからあと3週間は入院予定。それからリハビリ開始。とりあえず前期の定期試験は追試の申請をしなくちゃだね」
と榛名は頷きながら答える。
「ほんと大変でしたね。ところで手ェ、掴まれた方の大丈夫ですか?」
十夜はハッと気づいて聞いた。
「あぁ、これね」
榛名が右腕をゆっくりと差し出す。すると薄っすらと掴まれた跡が赤くなっていた。
「本体に影響してたんか……」
十夜はサーッと青くなった。が、黒崎の心配したように、割木の生霊に榛名の霊体が取り込まれるようなことがなくて良かった。
「他にはどこも影響してないから大丈夫だよ。あれもここには来てないし。それであれはあの後、大丈夫だったの?」
榛名が心配そうに言う。
「うん。あの後は出てきてない」
十夜は榛名に今回のいきさつを話した。割木のこと、大崎のこと。
その後、普段の大学での様子や友人の田丸のことを話した。
それを榛名は時に興味深そうに、時に楽しそうに聞いていた。
「ほんとは姉さんの大学の話も聞きたいけど」
入院中の面会なので、かなり整理して手短に話したが、そろそろ引き上げた方が良いだろう。
「私の話は十夜くんがまた夏休みに帰省してきた時に聞いてよ」
榛名はそう笑顔で返し、十夜も珍しくはにかんだ様子で頷いた。
「そう言えば、退院してリハビリとかどこから通うの?」
思わずストレートにタメ口で質問が出た。
「ああ、それなんだけどね」
榛名が言うところによると……。
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