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新たな出会い
「今日はボーカルさん、いないんですね」
いつもの時間、作曲期間を経た後に久々に路上ライブをし、片付けに入ると3人組の女性に声をかけられた。
「あ…すみません。彼はその…あの時だけの参加だったんで」
「なんだぁ、残念。待ってたのに~」
キラキラと着飾った女性達は口々にそう言い、去っていった。
胸がチクッと痛んだけど、想定内ではある。
落ち込むな、そりゃそうだろ…。
小さく溜息を吐き、キーボードをケースに仕舞った。
「あのぉ…」
背中でまた女性の声がして、僕は「またか」とあからさまに嫌そうな顔をして振り返った。
「ちょっと、お話いいッスか?」
少し高めなハスキーボイスに、色褪せたようなピンク色のロングヘア、いかにもパンクが好きです、といったファッションの女の子だった。
思わず全身をジロジロと見てしまった。
「えっと、お話? 何でしょう…」
すると彼女は嬉しそうに笑うと、興奮したように僕の手を握ってきた。
「あの! 自分、ずっと前から推してて! 動画とか撮らせてもらって自分用にこっそり見てたんスけど…この前ボーカルさんとのセッションを見て、もぉカッコ良すぎて、たまらんくて! テンション爆上がりで!」
あまりの早口についていけない。
何、何? 推し? 誰を? 弦?
彼女の勢いに圧倒されて言葉を発せないでいた。
それでも彼女は熱く語る。
「自分、ハードロックが好きで! パンクとかメタル派なんスけど。でも神のジャズっぽいアレンジとか聴いてからはもっと世界広がったっていうか!」
「ちょ、ちょっと待って。神って何?」
小さな八重歯がちらりと見える横長の口を開いたまま、彼女はキョトンとしながら僕を指差した。
「え、神ッス」
「……僕が?」
当たり前でしょ、という表情で彼女は大きく頷いた。
この子は僕を推してくれているのか…!
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