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「いやぁ、有り難いけど…神はちょっと…」
「えっ、じゃあ…何てお呼びしたらいいッスか!?」
いつまでもキラキラとした目で見つめられると、正直照れる。悪い気はしない。
「響一っていうんで、それで…」
「キョーイチさんッスね! 最強じゃないッスか!」
ちょっと何言ってるか分からない…僕と彼女の感覚はいつまでも交わらないような気がした。
「君の名前は?」
「自分、天笠詩音ッス。シオンでいいッスよ」
「へぇ~、シオンちゃん…可愛い名前だね」
僕が名前を褒めるとシオンちゃんは、急に俯いてモジモジとし始めた。
「か、可愛いッスか? えへへ…」
名前を褒めただけなんだけどな…とは思いつつも、しおらしくなった態度に微笑ましくなった。
「シオンちゃん、もし良かったら連絡先交換しない? そこまで熱心に応援してくれるのは君ぐらいだし…またライブやる時は連絡させてもらうよ」
「うぇ〜!? マジッスか! 嬉しい、ありがとうございます!」
刺々しい服装とは反対に、まるで少女のように純粋に嬉しそうなシオンちゃんに、僕はすぐ心を解くことが出来た。
「キョーイチさん、SNSとかやってないッスよね? どこ探しても見つけられなくて…何ていうか、珍しいッスね」
「うん…ちょっと、苦手でね」
ストリートミュージシャンを始めた頃は、意気揚々と自身の宣伝をしたり、ピアノ演奏の動画をアップしたりしていた。
注目されることへの興奮と喜びしかなかった。
だけど次第に悪意のあるコメントが増えてきて、それからは心折れて全て辞めにしてしまったのだ。
今はそれなりにネットの闇も理解し、上手く躱せる術も身につけた気はするけれど、やはり気が進まなかった。
生身の人間の前で、生の反応を見る。
野次が飛ぶこともあるけれど、それらは音楽が掻き消してくれた。
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