ライブへ向けて

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「今回わりと曲数あるけど…ぶっつけ本番で大丈夫そう? 練習しに行く?」 正直、彼なら大丈夫だろうと信頼はしている。明日の本番、その瞬間に聴きたい気持ちもある。 「カバー曲の歌詞が危ういけど…今夜中にチェックすればイケる…はず。まぁ、間違えてもそれもライブならではということで…」 ハハッと笑う顔に、僕もつられて笑った。 早く歌声が聴きたい。今、僕が一番のファンである自信がある。 「あー! いたいた!」 カシャカシャとナイロン製の布が擦れる音がして振り向けば、スタッズの付いたリュックを背負い、今日もパンクファッションのシオンちゃんが小走りで近づいてきた。 すでに注文は済ませたようで、手にはセットメニューを乗せたトレイを持っている。 「シオンちゃん、どうぞ。ごめんね、急に呼び出して。あ…彼が弦くんです」 花咲いたように顔を輝かせてシオンちゃんが一礼すると、弦も軽く微笑み小さく会釈をした。 性格がフランクな二人は、あっという間に距離を縮めて、弦に至っては「シオン」とすでに呼び捨てである。 「打ち合わせ終わったんスか? あ、セトリは教えないで下さいね、明日の楽しみに取っておくんで!」 ニコニコ顔でシオンちゃんは、スマホを取り出した。 彼女のスマホは、いかにもロックなステッカーでデコレーションされている。 「自分…明日も動画撮っていいッスか? てか…何なら、宣伝とかも任せてもらえたらやるッス」 「えー、シオンそういうの得意なの?」 意外だという顔で弦が驚くと、少し得意げにシオンちゃんはスマホをテーブルの中央に置いた。 「これ、自分が趣味で作ってたPVッスよ」 画面いっぱいに流れた動画は、カラフルで少しレトロなロックテイストのイラストが曲に合わせてパパパッと切り替わる、勢いのある映像だった。 使われていた曲は、僕のオリジナル曲だ。 「あっ、これはどこにも流してないんで! 著作権うんぬんで訴えないで、怒らないで…」 ペコペコと必死に謝るシオンちゃんに二人で笑ったが、このPVのクオリティーの高さに驚いていた。 「ありがとう。すごいなぁ、シオンちゃん。僕はこういうの出来ないから…うん、すごくいい!」 「かっけぇな! プロっぽい」 それから3人で明日に向けてのPR方法を考え、今後の構想を練った。 出会って間もない僕らが、音楽を通して一つのチームになったんだ――。
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