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最高のライブ
――路上ライブの日。
予定の時刻間近になり、キーボードを設置していると、近くのベンチを中心に人が集まり始めていた。
こちらを見ながら笑顔で会話し、ライブを待ち望んでいる様子だった。
少しして、駅のコンビニへ水を買いに行った弦が戻ってきた。
「水、ここに置いておくな。…いやぁ、これ宣伝の効果? どんどん人増えてる」
「自分のSNSで発信してから、すぐ反応あったッスよ? 友達も来るって言ってたし、二人の曲と歌なら今よりもっと集まるかもしれないッス」
「今までで一番、緊張してるかも…」
僕は時間が近づくにつれソワソワと落ち着かない状態でいた。でもそれは楽しみに似た緊張でもある。
「もし人が増えてきたら、邪魔にならないよう交通整理するんで、安心して曲に集中して欲しいッス!」
キーボードの脚元に、ライブの為に作った宣伝ボードとチラシを置きながら、シオンちゃんはニッと笑った。
「シオンちゃんこそ神、なんだけど…。ありがとう」
「うへへへ…」
奇妙な笑い方ではあったけど、シオンちゃんは嬉しそうに照れた。
今日用意した曲はカバー曲が5つ、そしてオリジナル曲が2つの全7曲だ。
持ち時間は一時間、曲の合間に休憩や話をすることを考えると、少なくはない曲数だと思う。
各々準備を整えると、二人はキーボードの前に集まった。弦がスッと右手を前に伸ばす。
それに続いて、シオンちゃんが弦の上に右手を重ねた。
二人の強く期待に満ちた瞳に見つめられ、僕も頷き右手を乗せた。
「よし! いっちょ、かましたれー!」
弦の荒々しい掛け声に笑いながらも、僕らは声を高らかに上げた。
この高揚感はきっと一生忘れないだろう。
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