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弦は駅のコインロッカーから黒い大きめのリュックを取り出し、改札前で待つ僕の元へと戻ってきた。
弦は今夜、僕のアパートに泊まる。ホテル代を出そうかとも言ったけど、弦が「響一んちは?」と言うので、部屋の汚さを脳内で確認してから了承した。
「弦、もし…体力的に問題なかったらさ、少しだけカラオケ行かない?」
「おぉ、いいよ」
弦の返事は早い。ちゃんと考えてるのか心配になる。
僕らがさっきまで演奏していた場所を通り過ぎて、居酒屋だのパチンコ店だのが立ち並ぶアーケード内に入った。同じ並びにあるカラオケ屋に入る。
歌がコンプレックスの僕は滅多に来ないけど、時々友達や音楽仲間との飲み会の後に訪れることはある。常に聴き役に徹する。つまらなそうに見えるかもしれないけど、音楽は好きだから十分楽しんでいるんだ。
持ち込みOKのカラオケ屋なので、途中で買ったお酒とスナック菓子をテーブルに置いた。
ここでの代金は、あの酔っぱらいのおじさんがくれた「投げ銭」から使わせて貰うことにした。
「弦はいつも何歌うの?」
「えぇ〜…俺カラオケは最近あまり行かないからな~。今どきの歌とかよく知らんし。それこそ今日歌ったみたいな皆が知ってるやつしか歌えない」
興味深そうにタッチパネルを操作する弦を見ながら、僕はぼんやりと先程までの彼を思い出していた。
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