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アンコールの僕の曲を、彼は最後まで詰まることなく歌い切った。初めてとは思えない程、流れるように。
曲の雰囲気に合わせて、声も変えているような力強さとカッコ良さが加わって、さらには英語で歌っていたのには、あまりに意外過ぎて動揺してしまった。
それについて彼に聞いてみたら、面白い答えが返ってきた。
「え? あれ、デタラメ。洋楽聴きまくってた時に覚えたフレーズをなんとなく充てた。俺も何言ってたのか全然分からん」
あんなにカッコ良かったのに…僕はそのギャップに大笑いした。あの場に英語を分かる人間がいたら、きっと意味不明な歌詞だったのだろう。
「響一も何か歌えよ。いいだろ、二人だし。ほら、これなら歌える?」
数曲歌い終えた弦が入れたのは、童謡チューリップだった。
「さすがにバカにし過ぎじゃない!?」
僕らはゲラゲラと笑いながら、適当に気が済むまで歌った。後半は懐かしのアニメソングを歌ったり、童謡をいかにクールにプロっぽく歌えるかのゲームになっていた。
「そういえば、あのおじさんのこと、先輩って呼んでたの何で? 知り合いじゃないよね?」
「知らないおっさんだね。でもさ、おっさんとかおじさんって呼ばれるより、先輩の方がイラッと来なくね? 人生の先輩であることは間違いないし。一応リスペクト込めて…」
僕は「はぁ」と感心したように溜息をついた。人懐っこく、裏表のない性格。カラッとした夏の大地がイメージされた。
彼の側にいると自分まで光に照らされるようだった。
暖かいというより、暑いくらいだ――。
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