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「ロレンゾ」
「えっ?」
のろのろと歩いていると、急に声を掛けられてビクッとした。
俺のことをロレンゾって呼ぶ友達はいない。みんな、レンとかロリとかって呼ぶから……。
街灯の側に立っていたのは、あの人だった。
「ジェイク……?」
「あ、名前覚えてくれたんだ」
そう言って笑う……そんな風に笑うんだ。
「やっと目が合った」
彼は俺の顔を覗き込むようにして視線を合わせて来る。
またドキドキと動悸が激しくなったから、なんだか怖くなって、足を速める。
「送って行くよ」
「や、いい」
「俺も家こっちだから」
「あ、そう」
ジェイクは俺が足を速めても、同じスピードで隣を歩いてくる。どういうつもりなのか分からない。彼にとっては、さっきのキスなんてただの遊びだから、気まずさすら感じないんだろうか。だけど俺は物凄く気まずい。
「さっきの、初めてだった?」
「……ち、がう」
反射的に嘘をついた。あんなゲームなんかで初めてが終わってしまっただなんて、認めたくない。
「まあ、初めてにもならないか、あんなの」
「え?」
思わず足を止めて、彼を見上げた。
「あんなの、カウントしちゃダメだよ」
そう言って笑いかける。自分だって面白がってた1人のくせして。まるで俺の心を見透かして労るような言い方。
「カウントなんて……しない」
キスなんて数えるまでもない、もう何度もしてる。そう聞こえて欲しいと思った。
だけど、ジェイクと目が合った瞬間、そんなのは通用しなかったって、分かった。
「こっち」
ふいにジェイクに腕を掴まれて引っ張られる。振り解けるくらいの力なのに、俺はふらふらとついて行った。角を曲がると、アパートメントの裏に面した、誰もいない暗い道だった。
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