Walking on the Milky Way

7/8
前へ
/26ページ
次へ
 どのくらいの間そうしていたのか、次に顔を覗き込まれた時に、初めて彼の顔をはっきりと見る事が出来た。ミシェルの家では下を向いてばっかりで、顔を見る事すら出来なかったから。  シャープなフェイスラインに、両耳に光る小さいシルバーのリングピアス。先の尖った高い鼻。濃いブラウンの前髪の下に覗く、ソーダキャンディみたいな瞳。 「息、出来てた?」  そう言って口角を上げて微笑む彼は、すごく綺麗だった。その時、すでにうるさく鳴り響いていた心臓が、一層強く飛び跳ねた。 「あー、なんか悪い事してる気分」  そう言ってくすくすと笑う。そうだ、これはすごく悪い事だ、めちゃくちゃ悪くて、だから俺は怒るべきだって。  そう思ったのに。腰を支えていたジェイクの手が外されると、急に膝からカクンと崩れてしまいそうな感覚に陥った。 「大丈夫?」  そう言って余裕で微笑みながら俺を覗き込む悪い奴。お前なんて知らない。そう言って放って家に帰ろうと思ったのに。  彼の右手の甲に血が滲んでいて。思わずその手を取った。 「痛い?」  手の甲と、人差し指と中指の拳の骨の部分を酷く擦りむいて、血が滲んで来ている。すごく痛そうだ。 「ま。地味に。大した事ないよ」  そう言って微笑む。俺が抵抗して背中を壁に擦り付けたせいだって分かった。 「なんか……ごめん。お、俺のせいじゃないけど、そっちがいきなりキスしたせいだけど」  罪悪感と、でも元はといえばそっちが悪いの気持ちがないまぜになって。その手を包み込んで見つめる。 「そうだよ、俺のせいだから。気にしなくていい」  そう言って笑うと、ジェイクは俺の頭を掻き回した。 「そうだよ、そうだし」 「ごめんね、初めてもらっちゃった」 「だから、違うし、初めてじゃないし」 「そ? あー、やば、かわい」 「うるさい」  軽口を叩くジェイクの言葉にいちいち反応して、顔が熱くてたまらない。もう暗くて良かった。 「さ、帰ろう」  そう言うと、怪我している方の手で俺の手を掴んで歩き出す。  なんで、手を繋がれて……いや、掴まれて。  そう思ったのに、ドキドキして喉から言葉が上手く出ていなかくて。ただ彼の横顔を見つめていた。 「マジで可愛いね。ロレンゾ。この夏、俺と遊ばない?」  家の前まで一緒に着いて来ると、ジェイクはそう言った。 「は? なんで」 「君のこと気に入ったから」 「なに、それ……そんなことより、手当てする?」 「ええっ? ありがと、大丈夫だよ。なんか、変わってるね、ロレンゾって」  何がおかしいのか、ジェイクは笑っている。 「変なのはそっちだろ」 「明日は何してるの?」 「え? 別になにも」 「じゃあ。また明日ね」  ぜんぜん噛み合わない会話。 「なんで?! 約束なんてしない」 「じゃあね」  そう言って俺の頭を撫でると、足早に帰って行った。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加