人の振り見て我が振り直さず

1/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 高校の頃の陸上部の友達のタケルが県の大会に出て400m走を走ると聞き、俺はその大会が開かれるスタジアムに来ていた。タケルとはたった三年の付き合いだったが、十年ぶりに成長したタケルの姿を見れることに俺は心底ワクワクしていた。  この大会では400m走だけでなく走り幅跳びや棒高跳びなど様々な競技をやるため、スタジアム内は人が多く、観客席も満席とまではいかないがかなりの人がいた。  チケットを取ればどこの席に座っても良いため、俺は一番400m走が見えやすそうな場所に座った。タケルが第4レースを走ることを確認すると、まもなく400m走の第1レースが始まった。  俺はタケルの走りにしか興味がなかったのであまり集中して見ていなかったのだが、しばらくすると隣の席から大声が聞こえてきた。 「もっとちゃんと走れよ! できないならやめちまえ! 下手くそ!」  驚いて隣を見ると、四十代くらいのおじさんが、走っている選手に憤慨しているようだった。  陸上に下手くそもくそもないだろ、と思いながらも俺は何も聞いていないフリをしたが、その後も長くヤジが続いたので、耐えきれなくなった俺は注意した。 「あの、静かにしてもらっていいですか!?」 「あっ、すみません……」  意外にも、男はすぐに謝った。 「私、普段からよくサッカーを見に行ってて……いつもそこで周りの人達と一緒にヤジを飛ばしているので、その感覚で今日も言ってしまいました。すみませんでした」  そう言うと、男は気まずそうにどこかへ行ってしまった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!