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「やめて!」
愛菜が男の腕を握り、引き剥がそうとするが、びくともしない。
(どうしよう、私のせいで、哲也さんが……!)
「この人は無関係だから! 離しなさいよ!」
「無関係なら、なんで庇うんだよ? ああ?」
哲也の苦痛に満ちた顔面が、愛菜の焦りを加速させる。
哲也を助けないといけない。誰からも愛されずに育った自分に、手を差し伸べてくれた人を。——
愛菜は天啓を得た。
(こうすれば、哲也さんは私と無関係になれる)
でもそれは、愛菜にとっての、たったひとつの癒しを失うことになる。
愛菜は哲也を見た。顔を歪めてまで、赤の他人を守ろうとしている。
(こんなに慈愛に満ちた人が、私みたいな悪人のせいで、傷ついちゃいけない)
男に胸倉を引っ張られていることで、わずかに哲也の首が見えている。
愛菜はそこに噛みついた。
夜に街を徘徊する可哀想な女の子への、「同情」という名の愛を。「助けてあげたい」という愛を。
愛菜は食べ尽くした。
「……え?」
愛菜が顔をはなすと、哲也は呆然としていた。男たちも、愛菜の奇行にポカンとしている。
「……何だい? 君たち……誰だ?」
哲也の言葉を聞いた愛菜は、急激に瞼が燃えたのを感じる。目尻のダムが決壊するより前に、愛菜はその場を走り去る。
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