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駅ビルを出た愛菜は、夕暮れの街を、がむしゃらに走る。誰かにぶつかる度にしかめ面をされるが、気に留める余裕もない。
(私は、両親の愛を食べてまで生きようとした、愚か者だ)
弟思いの哲也とは違う。
今の自分は、罰なのだ。
救助隊に助けられた時、両親は互いの生還を喜んだ。愛菜の無事を聞いた二人は「ああ、そう」とだけ返した。
でもそれは、当然なのだ。親が子に抱く愛を、他ならぬ娘本人が食べたのだから。
この重罪を償うために、愛菜は親からの無関心を周囲に訴えなかった。生きるのに必要な金を、すべて自分で稼いできた。その結果、哲也を巻き込むことになったのであれば、それもまた愛菜の贖罪である。
(私は誰かを愛しちゃいけない……だってもう、まともな生き方なんてできないんだから。私の普通じゃない人生に、誰かを道連れにしちゃいけないんだから)
街を駆けながら、愛菜は腹をおさえる。
(どうして、哲也さんの愛を食べたはずなのに)
お腹がすいて、すいて、たまらない。
見ず知らずの怪しい高校生に声をかけて、心の底から心配してくれる。そんな人の愛を食べたのに、腹がいっぱいになるどころか、どんどん空っぽになっていく。
(全然満たされないの……!)
愛菜の腹は空腹で鳴り、瞳は空虚に涙する。
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