16.僕が今、あなたに届いたよ⋯⋯。

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16.僕が今、あなたに届いたよ⋯⋯。

 私は異世界転生案内人『カイ』。今日も私の元に来客が来る。死んだ人間に私は選択肢を示す。異世界に転生できるなら、貴方は次はどんな人生を選びますか?    今日もお客様が来た。  高野茉子29歳。  私から見ればとても幸せな人。    顔が良いだけの男。  体育祭で活躍するだけ足が速くて活躍するだけの男。  口が上手いだけの浮気性の男。  笑顔が可愛いだけの頭の軽い年下。 そんな多くのどうしようもない男たちに振り回されて来た人生だった。 でも、やっと辿り着いた私の幸せ。 「汝 宮坂俊哉は、この高野茉子を妻とし、病める時も、健やかな時も、貧しい時も、豊かな時も、喜びあっても、悲しみあっても、死が2人を分つまで愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に、誓いますか?」  神父がゆっくりと誓いの言葉を読み上げる。 「はい、誓います」 「汝、高野茉子は、この宮坂俊哉を夫とし、病める時も、健やかな時も、貧しい時も、豊かな時も、喜びあっても、悲しみあっても、死が2人を分つまで愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に、誓いますか?」 「はい、誓います」 29歳の私、高野茉子はようやく真実の愛を手に入れた。 年収1200万円、実家は金は出すが口は出さない素晴らしい有料物件との結婚だ。 どこまでも広がる青空に、ウェディングブーケーを投げる。  みんなに私のこの幸せを分けてあげよう。 今まで、散々男に悩まされて来たのもきっとこの時の為の布石だ。 ブーケを受け取ったのは中学生くらいの男の子だった。 (招待客? 誰?) 不意に、隣にいるダーリンを見ても首を傾げるだけだ。  中学生くらいの男の子がそっと近づいてくる。 (どこかで会ったことがある気がする⋯⋯) 「13年前、赤ちゃんポストに出した僕が今、あなたに届いたよ⋯⋯」  彼が近づいて言った言葉に、一瞬時が止まった。  私は高校生の時に、担任だった教師の子を妊娠した。  憧れるだけで、付き合ったりはしなかった周囲から見ても真面目女子だった高校生時代の私。  私の初めての相手は進路相談をしていた担任の教師だった。  今思えば、立場を利用したパワハラのような行為だ。  そんな中、拒否権を発動できず憧れのような気持ちもあり受け入れてしまった過去。  その許されざる行為により孕った事を誰にも言えず、ただ受験によるストレス太りだと妊娠を隠した。  そっと公園のトイレで産んだ我が子は、手紙のように赤ちゃんポストに入れた。  そこから、私の男に振り回される人生がはじまった。  まるで、その出来事が大したことではないかのように他の男に夢中になろうとした。  それでも、私の心にずっと住み続けた男の子がいた。  忘れた訳ではない、ずっと会いたかった私の子。  ずっと沈黙していた秘密と、私の真実を明かしてくれる男の子。  私はその瞬間、全ての終わりではなく新しい始まりを感じた。   ♢♢♢  真っ白な空間に投げ出された。  私は結婚式で、昔、赤ちゃんポストに捨てた息子に殺された。 「始まりではなく、終わりでしたね。息子さんは、あなたを恨んでいた⋯⋯」  目の前に現れた金髪碧眼の美女は私を見下すように呟いた。 (私の思考が全て読めているのね⋯⋯神様なの?) 「神ではありません。私は異世界転生案内人カイです。分かりやすいクズ女のあなたにも異世界転生の道が開けてます。私は子を捨てるのは自殺より悪いと思いますがお上はそう思われてないようですね」  目の前の美女カイは神様ではないらしい。  彼女の上に、もっと裁量を持った人間がいるようだ。 「異世界転生? なにそれオタクの妄想? キモいんだけど⋯⋯」  名前も付けずに捨てた息子を私はずっと思っていた。  しかし、彼は私を恨んでいた。  正直、自分のような未熟な存在の意義は何かと考えている。
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