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「たぶん、八当たりしちゃうと思うから。もしそれで真倉を傷つけたら、私、自分のことが許せないよ。だから、もう来ないでくれると嬉しい」
土森さんは掛け布団を握り、そう言った。声色は明るいが、かすかにふるえていた。
「事故にあって、しばらく走れなくて、次の大会に多分出れないって分かったときに、私、真倉が羨ましくて消えてほしいって思っちゃったんだよ。そんなの、八つ当たりだって分かってる。でも、どうしても納得できない自分が、真倉のことを妬んじゃうんだ」
真倉は「そっか」と、つぶやいた。彼女の横顔をうかがうと、ツンと尖った鼻先をまっすぐ土森さんに向ける。
「土森が来てほしくないなら、そうする。でもさーー」
真倉は土森さんの右手首を掴んだ。持ち上がる手に合わせ、土森さんは真ん丸に見開いた目を真倉に向ける。
「少しくらいなら、八つ当たりしてもいいよ。そんなことじゃ、私は別に傷つかないし」
背中を丸めて体を倒し、真倉は持ち上げた右手を自分の頭に持っていく。ゆるく握られたこぶしが、真倉の頭を叩くように当てられる。
「待ってるからな」
「待たなくてもいいよ、追いつくから」
それ以上、とくに話すことなく真倉と僕は病室を後にした。
(部活、やっぱり入ろうかな)
二人の姿に触発され、僕は再び妖怪部活荒らしになりかけるのであった。
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