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僕はいったい、なにをしているのだろう。視界がぼんやりと白んでいて、はっきり見えない。そう言えば、あの少女は誰だったのだろうか。頭に霧がかかったように、なにも考えられない。
白く濁った視界の先に、誰かの黒い影が見える。
(そうだ、僕は彼女を消さないといけないんだ)
使命感のような、強い意志が僕を突き動かした。誰かの後ろ姿のようだが、それが誰なのかは分からない。黒いポニーテールが揺れる度に、腹の底から純度の高い嫌悪感が、ふつふつと沸きあがる。
どうやら僕は、彼女が憎いらしい。
「真倉」
そうだ、彼女はクラスメイトの真倉 名呼だ。思い出したときには、振り向いた彼女の首に両手をかけていた。
背の高い彼女は、僕を見下ろして首を絞める僕の両手を掴んだ。
彼女を消さないといけない。なにかに突き動かされるように、僕は両手に力を入れようとした。
そのとき、背後から頭を誰かに掴まれた。
「戒田君」
落ち着いた低い男の声がして、急に視界が鮮明になる。驚いた真倉の視線が、僕の背後に向く。僕を掴んでいるのはいったい誰だ。考えていると、頭がぐるりと後ろに向けられた。
僕の背後に立っていたのは、担任の埜呂先生だった。彼と視線がかち合ったとたん、目の前がちかちかと点滅し、口から白い霧状のもの物体が出てきた。
白く発光した稲妻や火花のような、不思議な物体が、するすると先生の口に入っていく。それを飲み込み、埜呂先生は両目を白黒と点滅させ、まぶたを閉じた。
「先生?」
恐る恐る話しかけると、埜呂先生の目がうっすらと開いた。
「戒田君、私を縛りなさい」
寝言のようにつぶやき、先生は僕の腕を掴んだ。
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