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埜呂先生によると、真倉を疎ましく思う感情に隠れて、ほんの少し違う感情が紛れていたらしい。どうやら先生は、悪意をはねのける土森さんの感情を、ほんの少し後押ししてくれたようだ。
「怪我人なんだから、無理すんなよ」
病室のベッドから起き上がろうとする少女の背中を、真倉は支えた。土森さんの右足は掛け布団の上で固定されている。骨折した足が傷んだのか、彼女はわずかに顔をゆがめた。その額には、真新しいたんこぶができていた。
「見下ろされていると、なんかむかつくんだもん」
「お前、立っても私を見下ろせないだろ」
ベッドに体を預け、土森さんは軽口を叩く真倉に唇を尖らせた。
真倉の話では、土森さんは交通事故で足を骨折し、入院しているようだ。あの日、僕の前に現れたときも、彼女は病院にいたという。次の大会には出られないだろうと、真倉は友人から連絡があったようだ。
「そっちの人は?」
「こいつは私の付き添いだから、気にすんな。私だけだと、会うのは気まずいかと思ってさ」
土森さんが僕の顔をうかがう。相変わらず、真倉の声は明るい。
「急に来て、気まずいも何もないでしょ」
そう言って、土森さんは苦笑する。一瞬ほぐれた表情が、すぐに強張った。
「せっかく来てもらって悪いけど、あまりここには来てほしくない」
か細く消えそうな声だったが、土森さんははっきりそう告げた。
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