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「そんな悠長なこと言って、先生だってずっとここに縛られてるわけにもいかないでしょう。今すぐ、なんとかできないんですか? おーい、先生の中にいる子、聞こえてる?」
先生のお腹に向かって、僕は口元に手を当てて声をかける。返事は返ってこない。
「君の声は聞こえない、と彼女は言っている」
「ぜったい、聞こえてるやつじゃん」
感情の塊だから、生霊とは会話できないのではなかったのか。埜呂先生は「困ったな」と首をひねるが、そんなに困ったようには見えない。
どうしたものか、僕は真倉に視線を向ける。真倉はスマホを指さし、憂鬱そうなため息をつく。
「こいつ、他校の陸上部のやつで、小学校が一緒だったんだよ。中学に上がるタイミングで、隣町に引っ越してさ。特別仲が良かったわけじゃないけど、今でも大会とかで顔をあわせることはあるんだ」
「その子に、なにか恨まれることでもしたの?」
僕が訊くと、真倉は首を横に振った。
「まさか。ライバルだって、勝手に思ってたくらいだ。今度の大会だって、土森と一緒に走るのを楽しみにしてたってのに」
スマホを握り、真倉は唇をかんだ。ライバルとまで思っていた相手に、実は恨まれていた。そんな相手がいたことのない僕には、その気持ちを想像することは出来ない。
感情をおさえるような表情の彼女に、僕はなんと声をかけていいか、分からなかった。
「こうしていてもらちがあかないし、直接あいつに訊いてみる」
悩む僕をよそに、真倉はふっと息を吐くと、スマホを操作し始めた。液晶画面をにらみつける彼女からは、苛立ちを感じる。
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