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「真倉さん、君は逃げなさい」  歩き出そうとした僕の両足が、なにかに拒まれて動けない。視線を下げると、埜呂先生の両足が僕をはさみ、拘束していた。僕は体勢を崩し、しりもちをつく。 「先生、戒田を離してください。正々堂々、そいつをぶん殴ってやるんで」  真倉は箒を握り締めた。彼女に目を覗き込まれると、頭が真っ白になる。  彼女が羨ましい。悔しい。妬ましい。消えてほしい。自分の意識とは反対に、僕の頭の中は不吉な考えであふれていた。埜呂先生の足に掴まっていなければ、今すぐ真倉に襲いかかっているはずだ。 「聞こえるか、戒田君。もう一度、私にその子を移すんだ」  そう言われても、真倉の方を向いた顔を、そらすことができない。  頭に血が上り、今にも破裂しそうだ。頭蓋骨の中で、ふつふつと湧き上がる感情が、僕を突き動かす。 「戒田君!」  埜呂先生の声がして、頭を掴まれた。いつの間にロープをほどいたのか、僕の顔を掴んだ埜呂先生に、両目を覗き込まれる。深い闇色の目を見た途端、僕の中からエクトプラズムが抜け出していった。  蛇のような発光体は、先生の中に入ることなく、僕が会った少女の姿に変わった。白く発光した少女が、箒を構えた真倉に飛びかかる。  ようやく体が自由になった僕は、すぐさま立ち上がり、彼女と真倉の間に走りこんだ。 「おい、そこを退け!」  真倉が立ちふさがる僕を押しやり、少女の前に出ようとする。  僕と彼女がもみ合っている間にも、少女の手が伸びる。真っ白い霧や発光した静電気のような両手が、僕の肩を掴んだ。触れられた感覚もなく、僕はそのまま体を投げ飛ばされる。背中が床にぶつかり、鈍い痛みに顔が歪む。  すぐに上体を起こすと、箒を掴んだ少女が見えた。
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