妖精さんと減らない新作

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妖精さんと減らない新作

「ごめんなさいオーナー」 1時間後。 結果はすぐに出ました。 チョコ餅の追加10箱を店頭に持って行ったのですが…… 全く売れていませんでした。 会計台の隣に置いた試食すら減っていない始末です。 えぇ、予想通りです。 「理由はわかりますか?」 「未知の食べ物ということで、お客様は懸念してしまって……試食も遠慮されてしまって……」 「まぁ、見た目はトリュフチョコっぽいはずなんですけどね……粘り気があるのが、やはり気になるのでしょうか。」 「買ったらすぐに食べないといけない……というのも結構ネックになってるみたいです。」 お客様の商品の会計をしながらアンナはそう答えてくれました。 なるほど、賞味期限……盲点でした。 数はそんなに入ってないはずなのですが……まぁ、ご自宅用ではなく あぁ……せめてこれが大福なら、もう少し日持ちさせられたのに。 如何せん、大福の作り方は知りません。 大福の素、とか白玉粉を使って作ったことはあるのですが、今この場にそんなものはありません。 というか、そんな材料があるかもわかりません。 餅米がここにあるだけでも奇跡なのです。 ……餅っぽいけど、多分餅じゃない。 白玉粉とかそういった類のものが必要になるなら……もう私には手が負えません。 白玉粉の生成方法を知らないのですから。 「今日はこの10個以上作るのはやめておこうかな。」 「えー」 「やめちゃうんですか?」 アンナは私の提案を受け入れた様子でしたが、妖精たちからは大ブーイングです。 「これ、日持ちがしないので売れないと破棄になるんです……もったいないでしょ?」 そういうと、この場にいた妖精たちが、みんなうーんうーんと唸り始めました。 そして、店頭にいた妖精のうちの一人が、チョコ餅の入った箱を一つ触れて、私にこんなことを言いました。 「じゃあオーナー、これもらっていい?」 「え?」 「だって売れてないんでしょ?」 「捨てちゃうんでしょ?」 「もったいない」 「賄いのかわりに食させて〜」 なるほど、売れないってわかってるなら、いっそってことですか。 もっと粘られるかと思いましたが、意外に潔いですね。 まぁ……放っといてもカチカチになっちゃいますしね。 「わかりました、じゃあどうぞ、これ食べちゃってください。」 「「「「「わーい」」」」」 私はそう言いながら、一箱あげると、妖精たちは喜んでそれを受け取りました。 そして、たくさんいるお客様の列を掻い潜って、それを持ってスキップしながらお店の外に出て行きました。 どうやらピクニック気分で日向ぼっこをしながら食べるつもりのようです。 残り19個 お店閉めてから作戦を…… 「オーナー」 今後の展開を考えていると、さっき外に出て行った妖精とは別の、厨房にいた妖精達が声をかけてきました。 「はいはい、なんですか?」 「オーナーにお客様」 「お客様?どなたです?」 「内緒ー」 「太客が名前は言うなって」 「……太客……?」 この子達がいう太客なんて……一人しかいないじゃないですか。 私は追加の10箱分を店頭に陳列せずに、持ったまま厨房に戻りました。
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