妖精さんとお忍びさん

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妖精さんとお忍びさん

「やはり殿下でしたか。」 厨房に勝手に入り、椅子に座って、妖精達と戯れながら楽しく会話している彼に、そう言いました。 しかも、今日はお付きの人も来てない。 文字通りのお忍び。 「大体あなた様、そんな暇な方じゃないでしょ?大体仕事どうしたんですか?」 「視察の途中だ」 お付きの人、今頃一生懸命殿下のこと探してるんだろうな…… 哀れなり。 「でしたら、早く視察行ってください。なんの視察か知りませんが。」 「大丈夫だ、あいつがうまくやってるだろう。」 あいつ……お付きの人のことでしょうかね。 改めて言います。 お付きの人、哀れなり。 「それより例のやつ、売れ行きはどうだ?」 うちの店の打ち上げをいちいち報告する義務はないはずなのですがね。 いや、アンナを紹介してもらっている以上関係ないとは言えないですね。 「さっき売り出したんですけど、さっぱりですね。未知の食物は手を伸ばしづらいようです。」 「全くダメなのか?」 「ええ、諦めて妖精達が一箱賄いにもらっていくほどです。」 「えー!いーなーー!」 「僕らもらってない!」 厨房組の妖精達が、私の売り上げ報告を聞いて、そう言い出しました。 しまった、この子達にあげてなかったですもんね、不満も無理ないです。 「はいはい、どーぞ。」 そう言って、妖精達の目の前で、チョコ餅の箱を一つ開きました。 群がる妖精達。 殿下の伸びる手。 「って、殿下も食べるんですか?」 「俺は客人だぞ?お茶請けくらいもらってもいいと思うが?」 まぁ、確かにおもてなししてなかったですけど。 仕事中の人間のところに仕事を抜け出した人間におもてなしも何もあったものじゃありません。 「しかし、こんなにうまいのに、売れないのは勿体無いな」 殿下はそう言いながらチョコ餅を美味しそうに頬張ります。 自分の作ったものを美味しい美味しいと言って食べてくれるのはなんだかんだ嬉しいものです。 ただ、それは売り上げとは別のこと。 「試食も食べてもら得ないのでは、どうしようもないですよ。」 「発売したばっかなんだろ?そんなに急いで答えを出さなくでも」 「そうだよオーナー」 「まだ諦めるのは早いです。」 「宣伝方法がいくらでもあるかと。」 「例えば?」 妖精の提案に私は耳を傾けました。 「殿下自らが食べてうまいと宣伝する!」 しかし、あまり参考になりそうにありません。 「だめですよ、この国で5本指に入るくらい偉い人に、こんな庶民のお菓子屋さんのお手伝いなんて……」 「お望みとあらばやろう」 「やめてください!」 なんで殿下はやる気満々なんですか。 一つの小さなお菓子屋如きに、そんな肩入れしないでくださいな。 「とにかく、勝算がないことはやめましょう。」 「諦めるっていうのか?」 「これで国の名物菓子を目指すのは……あまりにもおこがま……」 「オーナー!」 私が言葉を言い終える前に、店頭でお客様のお会計を任されていたアンナが、厨房の扉をバンっ!と大きな音を立てて開き、中に入ってきました。 「あ……あんなさん?どうしたんです?」 「チョコもち、至急追加で10……いえ、20ください!」 「はいいい!!!!!!??」 急な申し出に、私は思わず大声を出して驚いてしまいました。
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