妖精さんと厄介客

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妖精さんと厄介客

「まさか、本当に店を構えているとはな。」 「……ご無沙汰しております。」 私は庶民として、元婚約者である彼に頭を下げました。 二度と会うことがない……というか、向こうが私に会いたくないだろうと思っていたのに……どういう風の吹き回しでしょうか? というより、ここのことは家族しか教えていないはずなのに…… 「私がここにいるとよくお分かりで。」 「妖精のスイーツデリバリーとやらがきたのだが、その時にプラカードを見せつけられてな。」 私はそれを聞いてふと棚の上にいる妖精達を見ました。 彼らは元婚約者様に見えないように隠れていますが、いつか見た『濡れ衣だ』『冤罪だ』と書かれたプラカードを掲げていました。 なるほど、フェアリーイーツ、彼らのいうスイーツデリバリーにて、直接講義を受けたので、オーナー=私ということがバレたということですか。 情報漏洩甚だしいですね。 「それで?何をしにいらっしゃったのでしょう?お菓子を買いに来てくださったのですか?」 「菓子なら家のパティシエにでも作らせる。誰が好き好んでのお菓子を買うものか」 その言葉を聞いた瞬間、店内の空気が凍りました。 外で話さなかったことを後悔しました。 「営業妨害です、何かお話があるのでしたら外で……」 「ここで話してまずいことでもあるのか?」 「……」 私にやましいことはありませんが、相手は『やましいことが』と決めつけています。 このような場合、こちらが何を言っても埒があきません。 しかもお菓子の購入を目的としていません、世間話のつもりでもない。 と言うことは……悪意を持ってきたと言うこと。 目的は不明ですが……この店に不利益を被るつもりのようです。 「他のお客様の迷惑になります、商品に興味がおありでないのでしたら……」 「しかし無知というのは恐ろしい。」 元婚約者様は、私の声を遮って、行列の並ぶ狭い店内で演説を始めました。 「いくら普段見られない妖精が見られるからと、他人のものを盗むようなオーナーが運営する店に菓子を買いにくるなんて、庶民の底が知れるな」 「わ、私のことならいざ知らず、お客様のことまで悪くいうなんて、貴族様としてあるまじき行為ですよ!」 「事実じゃないか、罪人がノウノウと店を構えて商品を売ること自体、許せることではないと思うが?」 私はその声を聞いて、握り拳を作ります。 本当は、こんなことを言われたら、オーナーとして言い返さなければいけません。 事実でなくても『犯罪者』なんてレッテルを貼られてしまった暁には、店の評判はガタ落ちです。 でも……私には否定ができません。 追放されるきっかけになったあの事件、私は決して犯人ではありません。 それを声に出して主張したところで、後ろめたいことはありません。 でも、その証拠がない、情報がない。 彼を説得できる材料がない私が、何を言っても伝わることはありません。 「なぜそのようなことを言うのですか?」 絞り出せた言葉はそれだけでした。 しかし、その答えはその答えで、彼に餌を与えることになってしまいました。 「言い返せないと言うことは、自分が罪人だと言うことを認めるということか?」 「そう言う意味では!」 「いいや、君は他人のものを欲しがるような人間だ、手癖の悪さでものを売りながら客から何かくすねているかもしれないし、この新商品だって、どこかのアイディアを盗んだに……」 「なんだなんだ、戻ってこないと思ったら、店が騒がしいな。」 元婚約者様が店内でありもしない空想物語を私に投げつけている間に、厨房から誰かの声が聞こえてきました。 「で……」 殿下……でした。 殿下が店内に入ってきてしまいました。
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