妖精さんと出張所(2)

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妖精さんと出張所(2)

「大繁盛ですね」 私は人だかりをかき分けて、殿下と妖精たちがいるであろうベンチまで辿り着きました。 どこから出したかわからないテーブルの上には、どこから取り出したか不明のチョコ餅の箱の山が。 あぁ、これがあの謎の皇宮からの大量注文とさっきの追加分のがこれですか。 さっきの妖精3人から聞いた通り、無料で提供してました。 お試し版とのことで、なんかそれとは別に試食用とかありますが。 深く気にするのはめましょう。 「店はいいのか?」 私から声をかけられたことに気がついた殿下は、私にそう声をかけました。 「とっくにクローズしましたよ。あなたの連れにこれを持って行けって頼まれましたので。」 そう言って、さっきご購入いただきましたアンナ制作のチョコ餅の入った箱を殿下に手渡しました。 「あいつに頼まれたのか?自分で持ってくればいいのに」 確かに。 私自然と持ってきちゃいましたけど、購入した後のことはお客様に任せればよかったのに、なんで言うこと聞いちゃったんでしょう? やっぱ庶民だと、貴族のいうことは絶対だという意識が生まれるのでしょうか? まぁ、貴族だったとしても、間違いなく彼よりも私の方が階級は下なので、やはりいうこと聞かなきゃいけないんですけど。 まぁ、でもアンナがいましたし、きっと彼女に雇用条件とかの確認で話があったんでしょう。知らないですけど。 「まぁ、何より頼まれたのは事実なので受け取ってください。」 私はそう言って箱をグッと殿下に近づけると、殿下はそれを受け取ってくださいました。 そして中身を確認します。 「あ…開けちゃうんですか?それ贈呈ようなのでは?」 「いいや、試食用に欲しいから追加を頼んだんだ」 「試食?でも、プレゼントしてるんですよね?」 「何かわからないものもらっても困るだろ?味見して欲しい人にあげてるんだ。実際、目新しい菓子だから無料でももらってもらえないし」 「あぁ、なるほど。」 そういえば、うちも最初はそれで苦労したんでしたっけ。 なるほど…無料で配っても、やはりもらってくれない人はもらってくれないんですね。 でも、なるほど。 わざわざアンナのお菓子を購入したのは、試食用だったからなのですね。 試食なら、味に問題なければ形が歪でも問題はありませんから。 「それにしても、殿下ともあろう人が、なぜうちの店の手伝いなんかしてるのです?」 「国家プロジェクトのPRだ、俺がやらなくてどうする」 「ものは言いようですね」 腕組みをして、フンと鼻息を荒くする殿下を見てポツリとそう私は呟きました。 確かに、首脳会議の晩餐会で出そうというお菓子、そのために殿下の好物として宣伝しているのですから、この方法は売り上げに大きく貢献するでしょうけど、まぁやはり殿下を働かせるのは気が引けます。 これ……止めた方がいいんじゃないでしょうか。 とかなんとか思ったのですが…… 「手が空いてるなら話してないで働け」 接客中の妖精に強めの口調で怒られてしまいました。 妖精がこんなふうに注意を促すのは珍しいことです。 まぁ、この人がごった返している状況ではそれも仕方がないでしょう。 「「ごめんなさい。」」 殿下と一緒に、ぷんすこ怒っている働く妖精に謝罪をします。 そして殿下は仕事に戻りました。 こうやってみると、この現場は大変です。 無料で皇子がお菓子を配ってるなんて聞いたからか、街の庶民様たちがこうやって集まっていらっしゃっているのです。 もちろん、私のお菓子に興味を持っていただけているからだとは思うのですが、それ以上に殿下への興味が強そうです。 なぜそんな言葉がわかるかって? お菓子を受け取る際、女性たちは皆、殿下に握手を求めます。 皇族がありがたいから、珍しいからというのはあると思うのですが、単純に殿下、顔は結構いわゆるイケメンですもんね。 メロメロになったお嬢様方が、ふれあいを求めるのも無理はないかもしれません。 それに後ろの方からは、黄色い悲鳴が聞こえますし。 まぁ、殿下に目がいってるから、お菓子屋さんのオーナーがいることに気が付かず、騒ぎにならなくて助かっているのですけどね。 まぁ単純に、帽子かぶって、いつも業務中は一つにまとめている髪を下ろしているからかもしれませんが。 まぁ、余計な騒ぎを起こす前に退散しましょうかね…。 そう思った時、妖精たちに声をかけられました。 「帰っちゃう?」 「えぇ、おつかいはもう終わりましたから」 「でも急ぎじゃないんでしょ?」 「お疲れでなければお手伝いしてきませんか?」 「お手伝いですか?」 まぁ、確かに殿下を働かせて私だけ帰るのは忍びないですけど、しかし今私は噂の中心人物……私のせいでお客様も来店しない状況です。 ここにいると、かえって邪魔になるような気がします。 「そうしたいのは山々ですが、騒ぎになる前に退散します。」 「「「「「えー」」」」」 「僕らといるのそんなにいやー?」 「そういうことでは……」 「太客頑張ってるのに」 「太客、お客様なのに」 「それはわかってますけど……申し訳ないですけど……」 「そんなに働きたくない?サボり?」 さっきまでガッツリ働いて、さっきまで新人研修してたオーナーに向かってあまりにも酷い言いようですね。 「そんなこと言われましても、私の状況考慮してくださいな」 「あー」 「まぁな」 「またお客さんいなくなる?」 「つまりバレとーない?」 「そういうことです。」 「じゃあ、バレなきゃいいのでは?」 「そんな簡単に言いますけど……」 そんな対応策あります? 今は殿下に注目集まってますけど、殿下と一緒にいる女は誰だー!なんて嫉妬の目を向けられたら、バレる可能性大有りなんですけど。 常連さんいたら一発アウトですね。 「何も堂々としてればいいじゃないか」 耳だけこちらに傾けていたのでしょうか、殿下がお客様と握手をしながら、私にそう言いました。 無責任ことこの上ない。 「そうは言いますけど……ここまでの努力が水の泡になりますよ?」 「大丈夫だって」 楽観的。 あの現場にいてよくそんなこと言えますね。 「そんなに気になるなら変装します?」 「変装?」 提案をしてきた妖精に顔を向けると、いつの間にか取り出したのかフード付きのコート、サングラス、マスクがありました。 初歩的な変装道具ですが…… 見た目完全犯罪者。ポリスメン待ったなし。 「あの……何も、これ着てまで私がいることはないのでは?」 「でもバレないです」 「怪しくても一緒にいられるならいいじゃない。」 「あなた方、こんな変な格好してる私と一緒にいたいですか?」 「「「「「「あい」」」」」」 「どんな姿でも、我々ご一緒したいです。」 こんなことを、可愛い生き物に笑顔で言われたら、断れる人間がこの世にいるでしょうか? 私はいないと思います。
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