第2章 母親の考え

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第2章 母親の考え

娘が学校に行っている間に部屋の掃除をしようと部屋に入った。いつも通り少し散らかっていて、ペンなどが勉強机に散乱しているし、ベッドの上の布団は整えられていない。中学生になったと言えど、まだまだ子供なのだな、と何故か少し安堵してしまう。ペンをペン入れに戻してあげていると、いつもは鍵がかかっているノートに、今日は鍵がかかっていないことに気がついた。そういえば、お小遣いを貯めて文具屋で鍵付きのノートを買ってきて、幸せそうにしていた。いつもは大切そうに扱い、忘れず鍵をしめ、お気に入りの本の横に毎回毎回戻していると言うのに。鍵までどこかに隠して。そんなに娘が大切にするノートに何が書いてあるのか、気になってはもちろんいた。けれどあいていないから当然読めないし、読むのはプライバシーを守るにも駄目だと自制していた。けれど今目の前で娘の大切なノートを読めるとなると、気になって気になって仕方がない。…今読んで、そのまま戻せば、バレたりしないんじゃないか?現在時刻は午後の4時。読んでも、帰ってくるまでに元に戻すのは簡単だ。読むのは駄目だと分かっている。それでも、手を伸ばさずにはいられなかった。 鍵付きのノートの中身は日記帳だった。確かに、日記は少し恥ずかしいから、読まれたくはない。その日記をパラパラとめくっていると、毎日書いている訳では無いらしいが、一日分の文字量が多く、事細かに書かれていることがわかった。1番最近の日記は日付は昨日だった。 昨日の日記の大半は手撫井先生との会話についてだった。H市児童転落事故について教えてもらったようだった。 …H市児童転落事故? あの、事件じゃないかと言われた?何故先生が知っているの?その頃のその地域の新聞くらいでしか取り上げられなかったのに。その新聞でさえ小さくその事故の概要が説明されているだけだったのに。 私は小学生の卒業アルバムを押し入れから探し出し、卒業生のメンバーを確認した。確かにそこには“Yちゃん”が居た。そのYちゃんの名前は、手撫井夜鈴(てむいよすず)。珍しい名前だった。正直、その事故なんてもうどうでも良くて、ほぼ忘れていた。手撫井なんてあまりいない苗字なのにクラスメイトだったとなぜ気が付かなかったのだろう。あの、Yちゃん。本当に多重人格だったらしい。あの時はイタい人として流されていたのに。でも手袋をしていた、なんてよく覚えているものだ。それほど印象深く残っているのだろうか。そう思うと娘の言う通りなんじゃないかと思えてくる。娘の言う通り、夜鈴ちゃんが突き落としている可能性。クラスメイトの誰もこんな考えはなかった。手撫井先生は優しく信頼出来る良い先生と思っていたが、もしかしたら違ったのだろうか。今も解離性同一性障害が治らないまま生きているのだろうか。そんなことを私が言おうと何も変わらない。日記を元に戻し、掃除を始めた。
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