第1章 生徒の日記

1/2
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

第1章 生徒の日記

私の担任の先生はとても優しく、朗らかな良い先生です。その先生、手撫井(てむい)先生は、美術部で目立たない私でも褒めてくれます。今まで、小学校では明るく目立つ子か、とても頭の良い子が飽きる程に褒められ、私は見習わせられる側の人間でした。勉強も運動も人並みかそれ以下の絵を描くのが好きなだけの根暗な私を褒める先生は居ませんでした。けれど、手撫井先生は私の絵を良く褒めてくださるのです。美術の時間に自分の心の中の海を描きなさいと言われ、皆文句を口から垂れ流しながら筆を走らせていました。そうして描き上がったものの鑑賞会を行いました。そこで、1組、2組、3組、4組とあるにもかかわらず、桃色か、紫か、橙かと言うようなグラデーションの海は私の絵のたった1枚のみでした。そんな珍しい絵を描いたものですから、友達に何故その色にしたのかと聞かれたのです。そんな海はないと鼻で笑われながら。そこで変に返して一軍の人達の機嫌を損ねると面倒なので、一言、綺麗だと思ったからかな。と返しておきました。そうすると一軍の人達はケラケラと馬鹿にするように笑うのです。そこで美術担当の先生、手撫井先生は、心の中の海を描きなさいと私は言いました。花野さんの心の中の海はとても美しいのですね。花野さんの人の良さが伺えます。とても上手ですね。と褒めてくださったのです。初めて褒めてくださった先生として印象深く、心に残っています。ただ私は、ある事故の話を手撫井先生がしてくださった時に、どこか違和感を感じたのです。 …みなさんなら、いじめっ子に「あいつを階段から突き落としてこい。」と言われたらどうしますか?…田中さんは、渋々やるのですね。確かに、逆らって自分にヘイトが向いたら怖いですよね。分かります。…そこでちょっとした事故の話をしたいと思います。何年も前の話なのですが、H市で児童転落事故が発生したのです。知ってる人は?…やっぱり居ませんね。この事故はH市で起きたちょっとした“事故”でしかないのですから、仕方ないですね。転落した児童、男の子をA君と呼びましょうか。そのA君は階段から降りる最中でした。そこで足を滑らせたのか、踊り場に落下、そのままお亡くなりになられた事故なのですが。ただ、その小学校では事件なのでは?と噂程度に囁かれたのです。なぜか?それはその日A君と、ある女の子、Yちゃんが生前、一緒に帰るところが目撃されていたからです。突き落としたんじゃ?そこが分からなかったのです。突き落としたのなら指紋がつくのでは?その時期は冬で、Yちゃんは手袋をしていました。指紋は残らないでしょうね。そのクラス全員の子達に話を聞きましたが、証拠は出なかったそうです。それにYちゃんは一緒に帰っていないと証言したそうですし。ただ、そのクラスにはいじめがあったそうで。もしかしたら、命令されたのかも?そうかもしれませんね。 私は手撫井先生がそう話していた事故が気になり、インターネットでH市児童転落事故について調べてみました。ただ、その噂話はどこを探しても、見つからなかったのです。そもそもその事故は18年も前の事故で、あまり記事がなかった上、SNSもまだまだな時代、どこでそんな情報を手に入れたのでしょう。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!