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哲志兄さんを私は生涯許すことはできない。
私たちの弟が生まれると告げられたとき、兄さんは何と言ったか。
「これ以上馬鹿が馬鹿を再生産してどうするんだよ」
吐き捨てるような、でも声音にだけは感情を加えず言ういつもの言い方で。
私は怒りの余り叫んだものだ。
「馬鹿はあんたでしょ。何一人だけ偉そうなの。自分だけは頭いいとでも思ってるの」
兄さんはまるでうるさい蠅でも追い払うかのような手つきをして、薄笑いしながらそのまま自室に引っ込んでしまった。
「逃げるの」
ありったけの軽蔑を込めてその背に投げつけてやったが、それ以上は無言で振り返りもしなかった。
悔しくて私は歯を食いしばりながら涙をこらえた。
『卑劣な奴』
心の中で叫んだ。
本当に、あの兄の存在はこの家の、私たち家族にとっての癌だ。いつかは切除しなければならない、そういう思いが自ずから自身のうちに芽生えてきたのはその頃だったように思う。
いつも一人高みに立って家族を侮辱の目で見ている兄。
確かに兄は際立って学校の成績が良い。高校も県内のいちばんいい学校で、しかもずっとトップクラスだ。
父も母も、そんなに出来のいい方ではない。
でも、両親を馬鹿にするなんて、恥ずかしくないのだろうか。
たとえ学校の成績は良くても、本当は哲志兄さんは頭がいい訳ではない。
そう私は確信している。
馬鹿にしている両親がなかったら、勉強も進学もできやしないのに、本当に恥ずかしくないのだろうか。
父も母もよく我慢しているものだ。
私は兄を許せないし、兄の非道をいつかは詳らかに世間にも訴えたい。
ずっとそう願ってきた。
兄が18、私が16のとき、私たちの弟の雄志が生まれた。
兄は弟のことには何の関心も持たないまま、東京の有名大学に進学し家を出ていった。
「まさみも進学したかったら行ってもいいのよ」
母は私に言ったが、私は断った。馬鹿は馬鹿らしく進学などしべきでないと思ったのだ。
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