忌み地の怪

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そんな私達に容赦無く迫りくる、入院着の人影達。 それらは老若男女様々な顔をしていて――しかし、皆一様に弾ける様な満面の笑顔を浮かべていた。 例えるならば、まるで、人生における全ての慶事が一度に起きた様な……そんな笑顔だ。 それ程までに輝く様な笑顔を浮かべつつ、全身をゆらゆらと規則的に揺らしながら、私達に迫って来る人影達。 ――今思い出しても、それは本当に恐ろしい光景だった。 なんせ、間近に迫る彼らは、目鼻立ちや顔付き等は確かに人間であったが、体形はどう見て人間のそれではなかったのだ。 そう……それはまるで、溶けかかった蝋燭の様だったとでも言おうか。 彼等の体付きは、肩から腰にかけては普通の人間と変わりはなかったが、腰から下にかけては……ただただひたすらに、真っ直ぐだったのだ。 腰のくびれや尻から太腿のライン、挙句の果てには足すらなく――ただ、丁度二本の足を合わせた様な太さの物体が、地面から真っすぐに生えていたのである。 その上に、人影の上半身や頭が乗っている事を考えると、人影にとってはあの太い部分が、恐らく下半身にあたるのだろう。 地面に近くなればなる程、太くなっている様に見える、その足の部分であろう箇所。 彼らはその下半身を一切動かす事はなく――しかし、上半身だけを揺らしながら、私達に迫って来ていたのだ。 (でも、下半身を動かさないでなんて……一体どうやって?!) そう疑問に思った私は、改めて、迫りくる彼等の姿に視線を向ける。 そして、『ある事』に気付き、ぞっとした。 なんと彼らは、その上半身を、まるでチューブの歯磨き粉を捻り出す様に――ゆらゆらと回転させ、捻る事で、此方に向けて長く伸ばしながら、私達に迫って来ていたのである。
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