川瀬side

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しかし、僕には入社早々僕に告白してきて、 付き合いを承諾した恋人がいた。 やはり同期入社で、配属発表の後の打ち上げ で連絡先を交換した、佐橋という男だ。 何故、彼という恋焦がれる存在がいたのにも 関わらず、佐橋の告白を受けたのか? 子供の頃から誰かの期待に応えることを 重視していた。 たとえ自分の気持ちに蓋をしてでも、 自分の気持ちに従っていると装うことが 周りにとっていいことならと、 嘘をつく癖があった。 だから好きになった人より 好きになってくれた人を 迷わず選んだだけのことだった。 でも、苦しかった。 自分に嘘をつくことがこんなに苦しいのは 初めてのことだった。 今まで付き合った人はいたが、告白されて 付き合うことが圧倒的に多かった。 情が湧いて、うまく行けば御の字。 佐橋にも過去の恋人と同じように 接点を持ちながら様子を見ていたが、 嘘をつくのに精一杯で 結局指一本触れる意欲も起きずに 終わってしまった。
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