川瀬side

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彼が僕を好きなのではないかと気づいたのは、 一昨年の春。 部署のフロア内移動があり、彼が僕の3つ 列が離れた席に座ったときに起きた。 「川瀬くん、川瀬くん」 僕を呼ぶ声がして振り返ると、 彼がすぐ後ろで微笑んでいた。 「これ、あげる。引っ越しの挨拶」 そう言って僕の両手に置いたのは、 色とりどりのチョコレートの包み。10粒。 控えめでおとなしい印象の彼が 何故かその時ばかりは浮足立っていて、 周りの女子社員が苦笑いするくらいの テンションの高さだった。 笑いながら、受け取ったのを覚えている。 それ以来、彼は何かにつけ、僕と接点を 持とうとしてきた。 好きなアーティストのライブに行く と言えば、自分は聴いたことないから オススメの曲があれば教えてくれと 言ってきたり、今夜は外食の気分だ と言えば、帰りの時間を合わせてきたり。 これは確実にアプローチでしょと思い、 彼がすることをひたすら受け止めて、 月に1度はある同期の自宅飲み会では、 必ず彼の隣を陣取った。 特に、たまにする内緒話が心地よかった。 他愛のない会話だったが、 彼の囁き声は、僕の心をより熱くさせた。 彼はどんな休日を過ごしているんだろう。 彼と付き合いたい。 葛藤を乗り越え、そう決意したのは、 出逢って4年経った冬のことだった。
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