川瀬side

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「川瀬、ちょっと」 帰り際、佐橋がコートを羽織った僕を 呼び止めた。 「外に、出て。話がある」 そう言うと、佐橋は迷わずアパート近くの 公園まで歩みを進めた。 「話って、何?」 「川瀬、好きな人って岸野だったんだね。 それは、いつから?」 「‥‥ごめん、言えない」 「もしかして、俺と付き合ってた時、 既に好きだったんじゃない?」 「‥‥まさか」 「嘘つき。自分の気持ちに嘘をつくなって、 言ったのに。忘れたの?それがどんなに 相手を傷つけるかってことを」 「佐橋、ごめん」 「絶対、岸野とは付き合うな。あいつは、 俺にとっても大切な同期だから。傷ついて 欲しくない」 佐橋がいなくなってからも、 僕はしばらく公園で立ち尽くしていた。 彼と両想いになって初めて自分が変わって いけると思っていたが、自分の心に嘘つく 僕を本当に彼は許してくれるんだろうか、と。 とはいえ、まさか佐橋が僕と別れた後、 『岸野。悪いことは言わない。川瀬とは 今は付き合わない方がいい』 というLINEを彼に送っているとは 思いもしなかったが。
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