僕の言い分、彼の言い分。

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僕の言い分、彼の言い分。

 遊星の話は僕が思っていたのと全く違う話だった。  結局、駅までの道のりで話が終わることはなく通学に使うのとは反対側、塾に行くためのホーム側にある公園に向かい話した内容は、僕の進路をどうするのかから始まった。  そんなにも晴翔から遠ざけたいのかと呆れ、どうして僕が逃げなくてはいけないのかと腹を立て、だけどこの地を離れる気になっていた僕は2人が付き合っている前提で話を進める。  2人で過ごしたいなら勝手にすればいい。  自分は遠くの大学に進路を変える。  せいぜい2人で僕のことを笑って馬鹿にすればいい。  そんな風に感情を露わにする僕に困った顔を見せた遊星は中学の頃の話を持ち出し、晴翔から離れるべきだと僕を諭す。  自分は晴翔とテスト勉強をする約束を取り付けたくせに、僕には晴翔のために使う時間がもったいないと言う。  結局は晴翔から離したいだけのくせにと皮肉を言う僕に、何でそんなにも晴翔と一緒に過ごす事にこだわるのかと聞かれて言葉に詰まる。  遊星だって同じ中学で同じ時間を過ごしていたのだから僕の事情を多少は知っているのだろう。仕方なしに晴翔に庇護されている自分のことを話し、晴翔が離れていくことの不安を吐露する。  遊星が晴翔と過ごしたいと思う気持ちと、僕が晴翔と過ごしたいと思い願うことの違いは当事者でなければ理解できないのだから比べようがないのだけれど、遊星よりも僕の方が晴翔を必要としていたのだ。  そんな気持ちを込めて告げた僕と晴翔の関係だったけど、遊星は何かを考え込み、僕と遊星の認識の違いを口にしようとするけれど、そこで時間が足りなくなってしまった。 「ちょっと話長くなりそうだけど時間大丈夫?  無理なら夜にでも電話させて」  そうして交換した連絡先。  遊星が何を話したいのか、何を伝えたいのか、長くなる話とはどんな話なのか。    塾で過ごしている間も遊星の真意がわからず落ち着かないけれど、どんな話をするにしてももう少し時間が欲しいと思いメッセージを送る。 〈少し考えたいから明日電話します。  何時頃なら都合がいい?〉  話を聞く気がないわけじゃない。  ただ、公園でした僕の話に対する答えがどんな話であっても対応できるよう頭を整理したかった。  僕と晴翔の関係、晴翔と遊星の関係。  晴翔に対する僕の後ろめたさと打算。  晴翔の僕に向けた気持ちと変化した態度。  そして、遊星に向けた笑顔。 「それ多分、郁哉が思ってるのと違うよ」    その言葉の意味。 《明日はオレ、塾無いし。  8時過ぎたら大体自分の部屋にいるからそれ以降ならいつでも》  返ってきたメッセージに既読を付けスマホを閉じたけれど《あ、寝るのはいつも12時くらいだから急がなくても大丈夫だよ》と追加で送られてきたメッセージに仕方なく〈了解です〉と返信する。  返信したのは何か返しておかないともう一度メッセージが来そうだったから。  言いたいこと。  聞きたいこと。  知りたいこと。  知らなくていいこと。  考えることは沢山ある。  その日は課題を終わらせてベッドに入った後もなかなか寝付くことができなかった。  翌日は寝不足のまま学校に行き、落ち着かない時間を過ごした。  晴翔とクラスが離れたせいで1人で過ごすことになる予定だった学校生活だけど、気付けば一緒に過ごす友人もできたため淋しいこともない。 「郁哉、進路指導終わった?」  そう言ったのは同じ中学だった友人。  晴翔に進路を聞きたかったのは進路指導があったからだったと思い出す。あの時、晴翔の進路を確認しに行かなければ進路を変えようとは思わなかったはずだ。 「終わったよ。  でも進路変える予定だからもう一回やるって言われた」 「え、進路変えるんだ?」  少し前に進路の話をしたばかりだから意外だったのだろう。その声に他の友人も話に入ってくる。 「何で急に?  晴翔と関係あるの?」 「晴翔、最近他の奴らと連んでるもんね」  僕と晴翔はセットで見られがちだ。  だけどそれも今日でおしまい。 「晴翔はあんまり関係ないかな?  親が父の地元に帰るからそっちで選んでもいいかと思って。  いつまでも晴翔と一緒にいるわけにもいかないしね」  その言葉に何か言いたそうな顔をされたけど、気づかないふりをして言葉を続ける。 「僕だけこっちに残ってあのマンションに住むのは現実的じゃないし」 「アパートは?」 「アパート借りるならここじゃなくてもね」  困ったような笑顔を貼り付けてそう言えば友人たちは納得したような顔をする。 「本当は行きたい大学、あったんだよね」  そんなことは考えたことなかったけれど、言ってみると何となく自分の中でしっくりきたのは本当は晴翔と離れたかったのだと気付きはじめたから。  少しずつ、少しずつ気持ちを向ける方向が変わっていく。  その日の夕方、《10時くらいでも大丈夫?》と入れたメッセージに〈いいよ〉と返信をもらい、それまでに諸々のことを終わらせておく。  お風呂も入り、課題を終わらせる。  話したいことはあまり思いつかないけれど、聞きたいことは何となくある。きっと放っておけば何でも話してくれるだろう。  あとは遊星に電話をするだけ。 「少し早いけど大丈夫かな?」  10時までにはと準備をしたせいで思ったよりも早く支度ができてしまい時間を持て余してしまう。8時過ぎれば、と言っていたのを思い出しメッセージを送ってみる。 〈少し早いけど大丈夫?〉 そんなメッセージを送り、既読がついたと思った瞬間にかかってきた電話が僕の未練を断ち切る事になる。 「もしもし?  早くない?」  数回のコールで通話ボタンを押し、思わずそう言ってしまった。遊星からのメッセージを受け取ったらこちらからかけようと思っていたから気持ちが追いついていかない。 『ちょうどスマホ触ってたから』  言い訳のような言葉に苦笑いしてしまう。嫌なことはさっさと終わらせようと僕の電話を待っていたのだろう、きっと。 「ごめん、待たせちゃったね」 『大丈夫だよ」  この時間、電話してくるヤツもよくいるし』 「………晴翔も?」  無意識に出た名前。  そして、避けられない名前。 『晴翔とは電話したことないよ。  学校では話すけど帰ってからわざわざ話すような事ないし。  あ、だけどGWは会う約束したから先に言っておく』 「そうなんだ、」  何でもないことのように告げられた言葉にそう返すことしかできなかった。  僕は今まで何度のGWを晴翔と過ごしてきたのだろう。  小学生の頃は親と過ごしていたような気がする。  中学生の頃は親と過ごす事に照れ臭さを覚えて親と出かけることはなかったけれど、晴翔は晴翔で部活だったはずだ。美術部はGWに活動するほど活発ではなかったから僕は1人、自室で過ごしていた覚えがある。  高校生になっても晴翔は相変わらず部活、僕は部屋で勉強をしていたけれど、去年は部活のない日に「今日、親出かけさせたから」と呼び出されたんだった。  僕が晴翔と過ごしたGWはそれだけ。  それでもあの頃はまだ、優しさが残っていたような気がする。  そして告げられる遊星の一方的な言葉。  同じクラスになって、もともと知っている相手だから自然と話すようになったこと。  話の流れで郁哉の話になり、その時に聞かされたあの酷い言葉の事。  郁哉に言った言葉はどうかと思うけど、晴翔単体で見れば友達として付き合うには悪くないと思ってそれならとテスト勉強を一緒にしないかと誘ったこと。 『あんなこと言うヤツの面倒、郁哉が見る必要ないよ』  僕たちの関係はgive&takeだと思っていたけれど、遊星の目にはそうは映っていないようだ。  それにしても、やっぱり遊星は晴翔のことが好きなのだと告白されている気分になる。  僕はお払い箱なのだろう。 「遊星は晴翔のことが好きなの?」 『友達としてなら嫌いじゃないよ』  僕が欲しいのとは違う言葉。  いっそのこと『晴翔のことが好きだから自分が面倒を見る』と言われた方が気が楽になるのに…。 『仲良くしたいのは晴翔よりも郁哉だし』  そして訪れる沈黙。  遊星の言葉を理解しようとするけれど、何をどう考えても理解できない。  晴翔の酷い言葉を聞いて一緒に笑っていたくせに、そんなことを言う遊星は僕のことを馬鹿にしているのかもしれない。 『郁哉、聞いてる?』 「…馬鹿にしてる?」  そう問いかけられて咄嗟に出た言葉。  今までの遊星の態度を見ればそんな事はないと〈分かる〉けれど、分かるからと言って納得できるわけじゃない。  その言葉を信じて、自分への好意を受け入れて裏切られるのはもうゴメンだ。
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