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「けーなって、感情ある?」
俺の右腕にしなだれかかりながら、クラスメイトのエリナが問う。見上げてくる顔には、派手なメイクが施されている。
「ないよ! だって、ずぅーーっとだるそうだもんっ! めちゃクール!」
俺の左腕にぎゅうっとしがみついて答えるのは、マリエだ。こちらも完璧メイク。
「だよね、アンニュイとも言うよね。何考えてるか、よく分かんないけど。まぁ、カッコいいからオッケーなんだけど!」
そう言って、二人はわいわいと盛り上がっている。
感情がない、無表情、何を考えているか分からない。他人から見ると、俺、森嶋景名の人となりはそういう感じらしい。
いや、普通に感情はある。他人に比べたら、感情が薄いのかもしれないけど。完全に「無」ではない。
二人にしがみつかれて、両腕が重いなって思ってるし。つけま盛りすぎて、まばたきするの大変そう、って今も普通に思ってるし。
自覚があるけれども、改善しようとは思わない。わざわざ表情を作るのは面倒くさい。そんな労力を使うことはしたくない。気を使って笑顔を作るのも違う気がする。自分が相手の立場だったら、無理に笑ってくれなくてもいいよって思う。
そんな、ただの無愛想な俺を周囲はクールだとかアンニュイ(何だそれ、聞いたことない)だとか、どうやら良い方向に勘違いして捉えているようなのだ。
もしかしたら「クール」という評価には、母親ゆずりのやたら仰々しく整った顔面が役に立っているのかもしれない。
俺はいわゆるハーフで、母親はフランス人だ。ファッションデザイナー兼モデルとして、常に忙しく世界を飛び回っている。
父親は大手企業の経営者で、こちらも忙しい。息子に構う余裕はないらしかった。おかげで、俺は17歳にしてひとり暮らし。気ままな高校生活を満喫しているのだった。
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