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VS神父②
俺は平均的日本男児の握力しかないし、白魔導師は華奢な女の子だし、とても野郎二人がおさまった棺桶を運べない。
通りかかった荷馬車に乗せてもらうなどの手も使えない。
道のない砂漠のど真ん中「蟻地獄発生注意」の立て看板がある危険地帯では。
あたりには砂しかなく、風の音しか耳につかない寒寒しい場所で、でも、絶望している暇もなく。
いつ蟻地獄が発生して、棺桶が吸いこまれるかもしれないし。
あわわあわわと焦りながらも、白魔導師と頭を悩ませ、どうにか閃いた俺は、妖精、精霊召喚の舞いを踊った。
呼びかけに応じた砂の精霊(砂の山に、目、口、手がある)に、好物のりんごを与え、棺桶を運んでもらうことに。
砂漠を抜ければ、すぐに街道。
砂の精霊に礼を告げて別れたら、荷馬車をつかまえて、棺桶と共に乗せてもらい近くの町へ。
魔物に通せんぼされたり、ほかにトラブルに巻きこまれることなく、教会に辿りつけた。
「やあ、これはこれは、大変でしたな!」
にこやかに向かいいれてくれた、大柄な中年男の神父は気のいい人だった。
情けなくも勇者と格闘家が棺桶になったのに、呆れも、冷やかしもしないで「お疲れでしょう、まあ、お茶でも」とへとへとの俺たちを労ってくれたもので。
お茶で一服してから「では、神父さま」と白魔導師が鞄に手をいれたものの「あれ?」とごそごそ。
「どうしたの?」と聞けば「お金がない!」と涙目に訴えた。
仲間の財布のひもを牛耳る、鬼節約家の白魔導師が銭袋を忘れたり落とすわけがない。
と判断して、すぐに思いついた。
「そういえば、砂の精霊で小遣いほしがるヤツがいたな!」
報酬の前払いの、りんごを渡しても、尚もねだってくるのに、きりがないと聞く耳を持たなかったのが、裏目にでたよう。
俺たちのやりとりで、事情を察しただろうに神父に振りかえるも、困ったように笑いかえすだけ。
このあたりは、むかつくほどゲームに忠実らしい。
いくら神父が親切でも、蘇生にかかる費用をタダにするとか、割引するとか、ツケにするとか融通を利かせられないとのこと。
踊りで稼げなくはないが、けっこうな額だから三日くらいかかる。
ゲームでは長く棺桶にしたままでも、ゲームオーバーにならなかったが、転生後のこの世界ではどうだろう。
すぐに蘇生しないと死んでしまうか、体が腐ってゾンビのように復活するかもしれない。
しばらく放置していても大丈夫なのか。
神父に聞こうとしたところで「ひとつだけ、方法がありますよ」と肩をつかまれ、肯かれた。
「体でお支払いいただければ」
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