月があるかぎり

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 たくさんの写真から一枚を選び、さっき動画で見た通りに指を動かす。 「あれ? 消えない!? なんでぇ?」 『なに騒いでるの? あら、芽衣(めい)の写真じゃない』 「美月(みつき)、この男を消したいのに消せないんだ!」 『消す? あー写真の一部を囲んで消しちゃうっていうアレね』 「ああ、スマホを新しくしたから使ってみようと思って」 『……で、娘が留学先から送ってきた写真から男の子を消したいのね?』 「そ、そうだよ」  俺がしどろもどろと答えると、美月がくすくすと笑う声が聞こえる。 『あきれた』 「め、芽衣がさ、お父さんひとりぼっちで可哀想(かわいそう)だからって写真を送ってくれるのはいいんだけど、この男とのツーショットが多くてさ。消したくもなるだろ!」 『はいはい。わかったわ。もう一度同じ操作をやってみせて?』 「あ、ああ」 『ふーんダメね。じゃあ、今度はこっちの離れた石を囲ってみて?』 「ああ」  美月の言う通りに、俺はスマホの画面上で指を動かしてみせた。 「あ、石は消せた!」 『おそらくだけど、近すぎると消せないんじゃない?』 「はあ!?」 『ほら、こことか芽衣の頬と彼の頬がくっついてるし』 「ぐぬぬ」 『ここは腕を組んでるから腕と体が重なってるでしょ? そういうのを消そうとしても、ぼやけちゃうみたいね』 「ぐぎぎ」 『やだもう、衛士(えいじ)さんってば、変な声出さないで』  おかしくてたまらないというような美月の笑い声が聞こえる。 『消すのは諦めるしかないわね。芽衣ももう二十歳(はたち)でしょ? 彼氏くらいできるわよ。私だってその頃にはあなたとお付き合いしてたんだし』 「んん、ま、そりゃ……芽衣はしっかりしてるから変に羽目を外すことはないと思うけど。でもなあ、心配だよ」 『しっかり、か。芽衣が十五歳のときに私が死んじゃったから、しっかりせざるを得なかったのかしら』 「……美月」
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