月があるかぎり

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 俺は大学在籍中に仲間と起業した。初めこそ小規模だったが、じきに事業は順調に進み、成功への夢を膨らませていた。  美月とは幼なじみで、彼女が短大に入学してから付き合い始めた。早く安定した生活を築きたいと考えていた俺たちは、俺が二十三歳、美月が二十一歳のときに結婚した。だが、早めの結婚は、事業のようにスムーズには進まなかった。美月の両親の反対を押し切って、半ば駆け落ちに近い形で結婚した。俺の両親は反対こそしなかったが、援助は一切しないと言われていた。  仲間内だけで小ぢんまりとした結婚式を行い、翌年には娘の芽衣が産まれた。このまま幸せが続くと信じていた矢先に事業が立ち行かなくなり、貯金を取り崩して生活をしなければならなくなった。美月は芽衣を育てながら不安定な経済状況に耐えてくれた。彼女の忍耐と強さに支えられ、俺は前進を止めることなく最悪な状況から抜け出すことができた。  コツコツと貯金をしてきた結果、念願のマンションを手に入れた。そして、長い間苦労させてきた美月に感謝し、彼女好みのインテリアで空間を彩った。  もうあんな惨めな目に遭わせないと心に誓った。美月と芽衣の望むことをすべて(かな)えてあげたいと思っていた。
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